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参 サダメられし出逢い
この魂を支配する、ただひとつの存在【後】
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堰をきったように、美穂は泣きながら自身の胸のうちを話す。
いままでこんな風に、誰かに自分の想いを吐露したことがあっただろうか?
自分の弱さなど誰にも見せられない。周り中、敵だらけに思えていた。
「あんたに、そんな風に思われたくなかった……こわかった……」
それなら、自分のほうから遠ざけてしまえばいい、と。
傷つきたくない一心でした、愚かな『拒絶』。
「自分勝手な子ね。それでアタシが、傷つかないとでも思ったの?」
泣きじゃくりながらの告白は、己の弱さを盾にした拒絶という名の『攻撃』だと、断罪される。
「だいたい───」
あきれたように息をつき、セキコが美穂の前にかがみこんだ。
大きな手のひらが美穂の両頬に触れ、顔を仰向かせる。
「アタシがいつ、アンタのこと『いらない』って言ったのよ? ひとりで勝手に勘違いして……馬鹿な子」
目じりにそえられた親指が、物言いとは裏腹に、そっと涙をぬぐってくれる。
その優しさに誘われて、思いきって美穂は尋ねた。
「あ、あたし、このままこの世界にいても……いい?」
「アンタが望むなら、好きにしなさい」
「は、“花嫁”って、なにすんの? あたしにできることなんて、限られてるんだけど!
あんたの名前、口に出さないで伝えられるかなんて、全然自信ないし!」
「アンタはアタシの側にいればいいの。それで充分。
真名に関しては、前にも言ったと思うけど、アタシたちの問題でもあるから、気にしなくていいわ」
必死に言い募る美穂に対し、セキコの返答は軽くいなすようなもので、真剣味が足りない気がした。
(なんでこいつ、こんないい加減な調子なんだよ)
真剣になった自分が馬鹿みたいだ。
「ほら、帰るわよ」
立ち上がって、セキコが片手を美穂に差し出す。
美穂は、なんだか釈然としない。
「……結局あんたって、男でも女でもイケる人ってこと?」
確認せずにはいられなかった美穂の下賤な質問に、返ってきたのは盛大なため息だった。
「アンタって、下品な子ねぇ……」
「は? なにソレ。お前に言われる筋合いないんだけど!」
「───この際だから、ハッキリ言っておくわ」
両手を腰に当て、怒ったような表情でセキコが美穂を見下ろす。
「アタシはね、むさ苦しい男なんて、大嫌い!
ついでに、器量が良くても愛想のない男や、ムダに伊達を気取る男もムリ!
アタシが好きなのは」
言って、ひょいと伸ばされたセキコの指先が、美穂の鼻をつまむ。
あでやかに、その顔が微笑んでみせた。
「小さくて可愛い『仔猫』なの」
いきなりのことに面くらい、とっさに反応できなかった美穂は、セキコの指が離れた直後、拳を振り上げた。
「このっ」
「アンタのちっちゃな『爪』くらい、いくらでも受け止めるわ。安心して引っ掻きなさい?」
「……っ」
あっけなく阻止された拳は、やんわりと引き寄せられてしまう。
そのまま包みこまれた身体は、初めてされる抱擁を、くすぐったい思いで受け入れた。
───ただし、つかの間の従順さではあったが。
いままでこんな風に、誰かに自分の想いを吐露したことがあっただろうか?
自分の弱さなど誰にも見せられない。周り中、敵だらけに思えていた。
「あんたに、そんな風に思われたくなかった……こわかった……」
それなら、自分のほうから遠ざけてしまえばいい、と。
傷つきたくない一心でした、愚かな『拒絶』。
「自分勝手な子ね。それでアタシが、傷つかないとでも思ったの?」
泣きじゃくりながらの告白は、己の弱さを盾にした拒絶という名の『攻撃』だと、断罪される。
「だいたい───」
あきれたように息をつき、セキコが美穂の前にかがみこんだ。
大きな手のひらが美穂の両頬に触れ、顔を仰向かせる。
「アタシがいつ、アンタのこと『いらない』って言ったのよ? ひとりで勝手に勘違いして……馬鹿な子」
目じりにそえられた親指が、物言いとは裏腹に、そっと涙をぬぐってくれる。
その優しさに誘われて、思いきって美穂は尋ねた。
「あ、あたし、このままこの世界にいても……いい?」
「アンタが望むなら、好きにしなさい」
「は、“花嫁”って、なにすんの? あたしにできることなんて、限られてるんだけど!
あんたの名前、口に出さないで伝えられるかなんて、全然自信ないし!」
「アンタはアタシの側にいればいいの。それで充分。
真名に関しては、前にも言ったと思うけど、アタシたちの問題でもあるから、気にしなくていいわ」
必死に言い募る美穂に対し、セキコの返答は軽くいなすようなもので、真剣味が足りない気がした。
(なんでこいつ、こんないい加減な調子なんだよ)
真剣になった自分が馬鹿みたいだ。
「ほら、帰るわよ」
立ち上がって、セキコが片手を美穂に差し出す。
美穂は、なんだか釈然としない。
「……結局あんたって、男でも女でもイケる人ってこと?」
確認せずにはいられなかった美穂の下賤な質問に、返ってきたのは盛大なため息だった。
「アンタって、下品な子ねぇ……」
「は? なにソレ。お前に言われる筋合いないんだけど!」
「───この際だから、ハッキリ言っておくわ」
両手を腰に当て、怒ったような表情でセキコが美穂を見下ろす。
「アタシはね、むさ苦しい男なんて、大嫌い!
ついでに、器量が良くても愛想のない男や、ムダに伊達を気取る男もムリ!
アタシが好きなのは」
言って、ひょいと伸ばされたセキコの指先が、美穂の鼻をつまむ。
あでやかに、その顔が微笑んでみせた。
「小さくて可愛い『仔猫』なの」
いきなりのことに面くらい、とっさに反応できなかった美穂は、セキコの指が離れた直後、拳を振り上げた。
「このっ」
「アンタのちっちゃな『爪』くらい、いくらでも受け止めるわ。安心して引っ掻きなさい?」
「……っ」
あっけなく阻止された拳は、やんわりと引き寄せられてしまう。
そのまま包みこまれた身体は、初めてされる抱擁を、くすぐったい思いで受け入れた。
───ただし、つかの間の従順さではあったが。
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