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Keyless☆Night 一晩だけでいいから、泊めて?

『ご褒美』と『下心』【1】

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課題レポートを終わらせたいからという理由で、進藤くんは私に先にお風呂を勧めてくれた。

……たぶん、彼の気遣いだと思う。

おまけに、
「母のですけど」
と、パジャマまで渡された。

下着だけ替えればいいかと思っていた私には、至れり尽くせりだ。

こんなに厚かましくて図々しい女に、なんて親切なんだろう。

冷え切った身体を湯船で温めていると、その優しさに涙がでそうになる。

……うん。ちゃんと、謝ろう。好きになってゴメンねって。

鍵無くしたことにかこつけて、泊めてもらおうなんて最低なことしてゴメンナサイって。





進藤くんは、私がもう休んでると思ってたらしく、私のいる部屋と反対側の部屋のドアノブに手をかけたまま、驚いたようにこちらを見た。

「……枕、合いませんでしたか」

うん。わざわざ私がお風呂入ってる間に、旅館よろしくコタツのある部屋に、布団敷いてくれてたのにね。

そりゃ、逆に寝てて欲しかったよね、ごめん。

「髪、乾かさないの?」

「ああ……オレ、これで十分なので」

洗面台にあるドライヤーを指差す私に、濡れ髪をタオルで拭くしぐさで応える進藤くん。

いや、イイコ過ぎて申し訳ない。私が寝るのに音立てたら悪いとか思ってるよね。

あー、もう、本当にっ!

「ゴメン!!」

思いきり頭を下げた。
それで私がやらかした数々の非常識がなかったことになる訳がないけれど。

「なんか、進藤くんの優しさにつけ込んで、図々しくお世話になっちゃって。
あの、おわびに髪、乾かさせて!」

「はい?」

「あっ、おわびじゃなくて、ご褒美になっちゃう? いや、髪触りたいとかじゃなくて、その、遠慮なく髪乾かして欲しいというか!」

もう、何言ってんだ、私。
言葉を重ねれば重ねるほどアホ丸出しで、馬鹿みたいだ。

しどろもどろの私を見下ろした進藤くんが、ひとつ、息をつく。

「……分かりました。お願いします」

「へ? いいの?」

無造作にドライヤーを私に渡すと、コタツのある部屋に座りこむ進藤くん。

好きにしてくれという、どこか投げやりにも、あきれたようにも見える、その後ろ姿。

なんか……なんか、もう、こんな女が好きになってゴメンね! と、心のなかで謝った。

けれども。言い出しておいてなんだけど。

……緊張、するっ……!

濡れた黒髪に、こわごわと指を伸ばす。
ドライヤーの熱を極力あてないよう、温風を下から吹かせる。

想像より硬い髪質と、指先からスルリと逃げるように落ちていく毛先。
時折触れてしまう進藤くんの耳に、ビクッとして身体が震えてしまう。

スイッチをOFFに戻したとたん、どっと疲れが出て、思わずその場にへたりこんでしまうくらいだった。

「終わったよ、進藤くん」

極度の緊張からのリラックス状態に陥った私を、進藤くんが振り返る。いつも通りの無表情なはずなのに、わずかにその瞳に、いらだちが見えた。

「本郷さん」

透明なはずの声音が、それを表すかのように、にごって聞こえる。

「オレはあなたの弟でもペットでもないですよ」

力の抜けた私の右手を、進藤くんがつかみあげた。手のひらに唇が寄せられて、強く吸われる。

背筋がしびれるような甘い感覚が、走った。

気づけば、そこにあるのは感情のない瞳じゃなかった。

くすぶる炎が見えるような、強い眼差しが、進藤くんから向けられていた。

「優しさじゃなくて、ただ、あなたと一緒にいたかった。それだけの、下心ですよ」

「し、下心って……」
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