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第九章 ── 関谷 友理 ──

汚れた過去【4】

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「一応、味付けはしてあるけど、梅干しとかあったほうが良かったかな?
市販のヤツなら買ってきてあるんだけど」

「あの、友理さん。
私、本当に大丈夫ですから……」

何事もなかったかのように瑤子の世話をやき始める友理に、瑤子は言葉を重ねた。

すると友理は、大きく息をついた。

「瑤子ちゃん」

「……はい」

「尚斗のこと、好き?」

唐突に友理に訊かれ、瑤子はとまどいながらも、うなずく。

「好き……です」

「それって、男として、だよね?」

「はい」

瑤子が答えると、友理は満足そうに微笑んだ。

自分のバッグをつかむと、かけていた椅子から立ち上がる。

「なら、不釣り合いってことは、ないでしょ?

同情とか、自分の言いなりになるペットだ下僕だって思ってるなら別として。

そういう風に、はっきり私に……尚斗の姉である私の目を見て、言えるんだから。

瑤子ちゃんが何か、わだかまった想いを抱えているのは、分かる。

けど、それで尚斗との仲を釣り合わないって感じるのは、それだけ尚斗あいつのこと、大事に想ってくれてるからでしょ?

だったら、大丈夫。
ふたりは、お似合いだよ。

だって、尚斗も同じくらい瑤子ちゃんのこと、大事にしてると思うもの。
釣り合い、とれてるよ?」

にっこり笑って、友理は瑤子の瞳をのぞきこむように見てくる。

「それでも、もし、尚斗のヤツが瑤子ちゃん泣かすようだったら、私に言って?
ドカンと一発、殴ってやるから。ね?」

「友理さん……」

拳を握ってみせた友理に、瑤子はなんと応えていいのか分からずに、ただ彼女を見つめ返した。

友理の気持ちは嬉しい。
だがそれは、過去の瑤子の行いを知らないから言えることなのだ。

瑤子は、そう思ってしまう。

(私がいままでしてきたことを知ったら、友理さんだって……)

はたして、同じことが言えるかどうか───。

「それじゃ、瑤子ちゃん。お言葉に甘えて、私は帰るね。

まー、尚斗も、病人相手に妙な気を起こすほどガキじゃないと思うけど、一応、これ、側に置いといて。

もしものときは、ガツンとね!」

言い残して立ち去ろうとする友理に、瑤子は、なんとか愛想笑いを浮かべた。

それは、やがて苦い……苦い微笑へと、変わっていった。




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