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第六章 ── 潮崎 葵 ──
君がための微笑み【4】
しおりを挟む「じゃ、これ、約束の写真とネガ。この他には何も撮ってないから、安心していいよ」
後日。放課後の写真部の部室。
葵の言葉にホッとしながら、瑤子はそれらを受け取る。
そんな瑤子を見て、葵はゆったりと微笑んだ。
瑤子はなぜか、初めて彼が真の
“微笑み”を見せてくれたような気がした。
「───本当に、関谷が好きなんだね。
……最後に撮った『憐の喜び』はあなたの演技じゃないって、分かったよ。
あなたが関谷を想う気持ちが、あなたの自然体である“素直な喜び”を表現することにつながったんだと思う。
───神田さんの過去は、消せないかもしれない。
けど、いまの気持ちまで押し殺すことはないよ。
関谷だって、あなたの本物の想いには気づいているだろうし、あなたの過ちを赦すだけの力を、もっているはずだよ。
あの日の君たちを見て、僕はそう思った。
よけいなお世話かもしれないけど僕が感じたことを伝えたいと思ってね」
少し照れたように、葵は締めくくった。
葵の言葉は、瑤子の抱えていた息苦しさを軽くした。
だからこそ、彼に向けて初めての心からの笑みを、お礼と共に、返す。
「ありがとう」
瑤子の抱えている息苦しさ───尚斗に隠している『過去』。
それを尚斗に話すきっかけを、瑤子は探していた。
なんの前触れもなく、口にすることはできなかったから。
そして、万が一、尚斗から事実の是非を尋ねられたときは、ごまかすことなく彼に告げようとそう決意した……。
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