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第五章 ── 村上 和哉 ──

恋愛遊戯の傍観者【1】

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「やっぱり、来たね。……まぁ、想像はついてるだろうけど」

葵の指定通りにやって来た写真部。

瑤子の顔を見て、葵は満足げに微笑んだ。

かけていた椅子から立ち上がると、奥にある簡易現像室らしきところへ入って行く。

数分後、写真を手にして戻ってきた。

瑤子に席を勧めながら、口をひらく。

「実はね……村上との写真は一枚もないんだ。これは、別のヤツ」
「どういうこと?」
「見れば、分かるよ」

写真を手渡され、瑤子は愕然がくぜんとする。

(蒼、との…写真だったの……!?)

背後から瑤子の首筋にキスする蒼。

セーラー服の裾から片手を忍ばせる蒼と、恍惚こうこつの表情でそれを受け入れている瑤子。

キャンバスの前で、濃厚なくちづけを交わす二人。

いずれも美術室でのものだ。

「よく撮れてるよね。僕も、嬉しくなっちゃったよ。
でも、それ以上は写真を撮り続けるのも虚しいしね。やめたんだけど」

くすくすと、葵は楽しげに笑う。
驚いて声もだせないでいる瑤子の反応を、見るように。

「……これで、あなたの持ち札は全部?」

素っ気なく言う。

これだけなら、万が一、尚斗の目に触れるようなことになってもそれほどの打撃ではない。

もちろん、だからといって、他人に見せられるような代物でもないが。

(蒼とのことは、尚斗くんも知ってるわ。だけど……!)

和哉とのこと。
彼と関係をもったことだけは、尚斗に知られたくはなかった。

───これ以上、過去の偽りに満ちた『恋愛ごっこ』をしていた自分を、知られたくはない。

渦巻く思いをよそに平静を装う瑤子の前で、葵はおどけるように肩をすくめてみせた。

「ノーコメント。あるかもしれないし、ないかもしれない。
いまの段階では、答えられないな」

瑤子は歯噛みした。

どちらとも、葵の表情から読み取れない以上、下手な対応はできない。

「要求は、なにかしら? お金? それとも別の何か?」

葵は、くくっと、心底楽しげに笑った。猫っ毛の髪が、ふわりと揺れる。
そうしていると、愛らしい少女のような印象を受けた。

「───話が早くて助かるよ。
でも、そんなに|刺々《とげとげ
》しないでほしいなぁ。
僕はあなたを、脅迫したいわけじゃないし。
正当な……取引、だよ?」

白々しく言う。
小馬鹿にされているとしか思えない。

瑤子は、ひざに置いた両手を、ぎゅっと握りしめた。

「何と……交換しようって、言うの?」
「───あなたの身体と」

瑤子を正面から見据えて告げてきた葵に対し、思わず表情を凍らせてしまう。

そうくるとは思わなかった。

彼の少女のような外見から、そういった提示はないと踏んできていたのに。
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