26 / 93
第三章 ── 関谷 尚斗 ──
彼女の警告と彼の告白【3】
しおりを挟む
思わず立ち止まる。
尚斗も足を止め、答えを待つようにして、瑤子を凝視する。
───まさか蒼のことを、そんな風に尋ねられるとは思わなかった。
尚斗が、蒼と自分の付き合いを、誤解しているだろうことは知っている。
いや、彼以外の者でも、美術室でのあの現場に踏みこんで、二人を『恋人同士』と思わないほうが不自然だ。
(だけど、それでこの質問って……なに?)
「どうして、そんなことを訊くの?」
逆に尚斗に問い返す。
「どうしてって……」
口ごもる。
言いにくい理由があるらしい。
仕方なく、瑤子は言った。
「私……蒼とは───斎藤くんとは、別れたわ」
本当は、付き合う以前の問題だったのだが、それを尚斗に説明するのも馬鹿らしい。
「彼とはもう、なんの関係もないわ。彼でなきゃいけないなんていう、気持ちも残ってないし……」
ふと、蒼との苦い会話がよみがえってくる。
せめて彼との関係が、本来あるべき姿───恋愛感情を寄せあえていたのなら、どんなに良かっただろう。
(いまさら後悔しても、仕方ないのにね)
自嘲的な想いが浮かびあがる。瑤子はそれを隠すように尚斗を見た。
「こういう答えでいいかしら。他に答えようがないんだけど」
「───じゃあ……」
それまで瑤子の言葉を意外そうに聞いていた尚斗が、急に気をとりなおしたように意気込む。
「じゃあオレと、付き合ってくださいっ」
言った直後、真っ赤になるのが彼らしいといえばらしいが、瑤子は自分の耳を疑った。
(なに、言ってるの……?)
尚斗の真意が理解できない。
昼休みの女生徒は瑤子が早とちりしただけで、尚斗の『彼女』ではないのか。
(ずいぶん親しそうに見えたけど)
距離感、というのだろうか。
感覚的なものでしかないが、『友達』というには、二人から受ける印象は、近すぎるように感じたのだが。
「……本気で言ってるの?」
冗談で軽はずみなことをいうタイプではないと思っていた───少なくとも、いままでは。
「こんなこと、ふざけて言えるわけっ……」
ムッとしてこちらを見る尚斗の表情は、真剣そのものだ。
「オレは確かに年下だし……別れたって聞いた直後に、こんなこと言うなんて卑怯かもしれないけど、斎藤先輩だって───」
瑤子の反応を、断っている態度に感じたらしい。
尚斗は懸命に言葉を紡いでいたがそこで口をつぐむ。
瑤子から視線をそらし、ふたたび尚斗は言葉を重ねた。
「とにかく、オレは本気だし、初めて会った時からずっと気になってて……笑った顔とか、もっと近くで見てみたいって、思ったからで……」
だんだんと小声になっていく。
始めのうちは勢いに任せて言っていたものの、次第に自身の発言に照れてしまったのだろう。
思わず瑤子は、噴きだしてしまった。
尚斗を疑っていた自分に対してのものだったが、尚斗はそうは思わなかったらしい。
片手を髪のなかに突っ込んで、面白くなさそうに横を向く。
すねたような態度が、瑤子にはとても可愛いく映ってしまうのだが、本人に自覚はないようだ。
───雨は、いつの間にか、止んでしまっていた……。
尚斗も足を止め、答えを待つようにして、瑤子を凝視する。
───まさか蒼のことを、そんな風に尋ねられるとは思わなかった。
尚斗が、蒼と自分の付き合いを、誤解しているだろうことは知っている。
いや、彼以外の者でも、美術室でのあの現場に踏みこんで、二人を『恋人同士』と思わないほうが不自然だ。
(だけど、それでこの質問って……なに?)
「どうして、そんなことを訊くの?」
逆に尚斗に問い返す。
「どうしてって……」
口ごもる。
言いにくい理由があるらしい。
仕方なく、瑤子は言った。
「私……蒼とは───斎藤くんとは、別れたわ」
本当は、付き合う以前の問題だったのだが、それを尚斗に説明するのも馬鹿らしい。
「彼とはもう、なんの関係もないわ。彼でなきゃいけないなんていう、気持ちも残ってないし……」
ふと、蒼との苦い会話がよみがえってくる。
せめて彼との関係が、本来あるべき姿───恋愛感情を寄せあえていたのなら、どんなに良かっただろう。
(いまさら後悔しても、仕方ないのにね)
自嘲的な想いが浮かびあがる。瑤子はそれを隠すように尚斗を見た。
「こういう答えでいいかしら。他に答えようがないんだけど」
「───じゃあ……」
それまで瑤子の言葉を意外そうに聞いていた尚斗が、急に気をとりなおしたように意気込む。
「じゃあオレと、付き合ってくださいっ」
言った直後、真っ赤になるのが彼らしいといえばらしいが、瑤子は自分の耳を疑った。
(なに、言ってるの……?)
尚斗の真意が理解できない。
昼休みの女生徒は瑤子が早とちりしただけで、尚斗の『彼女』ではないのか。
(ずいぶん親しそうに見えたけど)
距離感、というのだろうか。
感覚的なものでしかないが、『友達』というには、二人から受ける印象は、近すぎるように感じたのだが。
「……本気で言ってるの?」
冗談で軽はずみなことをいうタイプではないと思っていた───少なくとも、いままでは。
「こんなこと、ふざけて言えるわけっ……」
ムッとしてこちらを見る尚斗の表情は、真剣そのものだ。
「オレは確かに年下だし……別れたって聞いた直後に、こんなこと言うなんて卑怯かもしれないけど、斎藤先輩だって───」
瑤子の反応を、断っている態度に感じたらしい。
尚斗は懸命に言葉を紡いでいたがそこで口をつぐむ。
瑤子から視線をそらし、ふたたび尚斗は言葉を重ねた。
「とにかく、オレは本気だし、初めて会った時からずっと気になってて……笑った顔とか、もっと近くで見てみたいって、思ったからで……」
だんだんと小声になっていく。
始めのうちは勢いに任せて言っていたものの、次第に自身の発言に照れてしまったのだろう。
思わず瑤子は、噴きだしてしまった。
尚斗を疑っていた自分に対してのものだったが、尚斗はそうは思わなかったらしい。
片手を髪のなかに突っ込んで、面白くなさそうに横を向く。
すねたような態度が、瑤子にはとても可愛いく映ってしまうのだが、本人に自覚はないようだ。
───雨は、いつの間にか、止んでしまっていた……。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
サディストの飼主さんに飼われてるマゾの日記。
風
恋愛
サディストの飼主さんに飼われてるマゾヒストのペット日記。
飼主さんが大好きです。
グロ表現、
性的表現もあります。
行為は「鬼畜系」なので苦手な人は見ないでください。
基本的に苦痛系のみですが
飼主さんとペットの関係は甘々です。
マゾ目線Only。
フィクションです。
※ノンフィクションの方にアップしてたけど、混乱させそうなので別にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる