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第二章 ── 前田 圭一 ──
禁じられた想い【4】
しおりを挟むいつのまにか降りだしていた激しい雨音とは別に、秘めやかな息遣いが、室内に響く。
瑤子の机の上には、開いたままの参考書と問題集はあるが、その前に二人の姿はなかった。
代わりに、チタンフレームの眼鏡だけが、活字を追っているかのように置かれていた。
おもむろに離れていく唇の感触に、自然と開いた瑤子の目が捕えたのは、圭一の伏せられたまつ毛だった。
瑤子が眼鏡を外した圭一の顔をここまで間近で見たのは初めてで……恥ずかしさと嬉しさが、ない交ぜになる。
現実でないような距離感に、指で触れたい衝動にかられた───その頬にも鼻にも唇にも。
「……どうかした?」
興味深く見つめる瑤子を、逆に不思議に思ったのか、圭一に瞳をのぞきこまれる。
ブラウスに、最後に残されたボタンが外された。
瑤子が素直に思っていたことを述べると、圭一は小さく笑った。
その唇が、瑤子の耳もとへと運ばれる。
「いいよ。瑤子ちゃんの、好きなようにして」
吐息と共にささやかれ、圭一の息をくすぐったく感じて身をよじる。
拍子に、するりと脱がされたブラウスは、両腕を拘束し、瑤子を圭一に引き寄せた。
そのまま、うなじにくちづけが落とされる。
寒気にも似た快感を口火に、頬から唇から、今までに誰からも触れられたことのない部分を含め、圭一の唇と指、そして素肌が触れる。
身体が、羞恥と快感によって、熱を帯びていくのが分かった。
「……やっ……」
瑤子は身を縮め、身体の向きを反転させた。
驚いたように圭一は瑤子を見たがすぐに表情を和らげた。
「怖いの?」
やんわりと問われ、瑤子は言葉に詰まり、ただ圭一を見つめる。
(怖い……怖いわ)
実感したせいか、肩がびくりと震えた。
未知の世界に足を踏み入れるのは、怖かった。
学校での女友達との内緒の会話。
その手の情報は、嘘か真か分からぬまま、興味本位の少女たちに予備知識として与えられる。
「……大丈夫」
それでも、優しくいたわるような圭一の眼差しを見ると、自然、瑤子の口からは、そんな言葉がこぼれ落ちた。
「もう、大丈夫、だから」
瑤子の顔の脇に置かれた圭一の手首に指を伸ばし、瑤子は自分に言い聞かせるように告げた。
怖くはないといえば嘘になるがそれ以上に、もっと身体を寄せ合いたいという欲求が勝ったのだった。
「───分かった」
微笑みを浮かべた圭一が瑤子の指先をつかみ寄せ、自らの唇に押しあてる。
次いで、瑤子の耳もとで、彼女の名をささやく。
常よりも、甘やかに響く声音。息遣いに、緊張ではない震えが、瑤子の身体に走る。
そのまま寄せられた唇は、新雪の上に足跡を残すように、未成熟な瑤子の身体の上を、跳ねた。
瑤子の不安を解きほぐすために繰り返された、短いくちづけは、同時に、瑤子の身体の強ばりをなくし、ひらかせた。
そのうちに、瑤子の指先を包んだ大きな手のひらが彼女の身体の形を確認しながら、ゆっくりと下がっていく。
外側からたどった指先が、大腿の内側を愛撫し、下腹部へと近づいた。
布ごしになぞる圭一の指の行方に、瑤子は小さく身震いした。
次第に、熱と湿り気を帯びてゆく部分が、全身に指令でもだしているのかと思うほどに、手指にまでしびれが回る。
「……あっ……」
吐息がかすれ声と共に、瑤子の唇からもれる。
優しい刺激から、少しずつ強い刺激が与えられ、瑤子のあえぎ声の間隔も短くなっていく。
「……瑤子ちゃん───」
圭一のせつなげなささやきを遮るようにして、その瞬間、瑤子の部屋の扉が、開いた。
「なっ……何をっ。あなた達、何をしてっ……!」
悲鳴に近い、母親の声。
ふたりの秘密の時間は、脆くもくずれ去った……。
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