憐の喜び〜あなただけ知らない〜

一茅苑呼

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第一章 ── 斎藤 蒼 ──

密会の終わり【2】

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瑤子は美術室の床に座りこんでいた。

いつまでも……いつまでも蒼の残した言葉が、頭のなかでこだましていた。

告げられた事実も瑤子にとってはショックではあったが、蒼の口から聞くことになろうとは思いもしなかった。

(あんなこと、言う人じゃなかったのに……)

言わせたのは、きっと自分だ。

蒼が好きだった。
だがそれは、恋愛感情ではなかった。
同じ価値観をもつ、同士のような関係。それが、ふたりを繋いでいたはずだ。

(どこで、間違えたんだろう……)

肉体だけの関係に、どちらが先に不満をもったのか。いまとなっては、探りようもない。

いずれにせよ、瑤子は苦い思いをかみしめていた。

いつか別れがくることも、予測していた関係。

しかし、想像していたのは、こんな別れ方ではなく……お互いに納得のいくものになるだろうと、漠然と考えていた。
───自分に都合のいい……浅い考えだった。

窓ガラスを、ぽつりぽつりと雨が弾き始める。

瑤子は放心したままで、その雫の音だけを、胸のうちに受け止めていた。



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