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宴もよう〜おまけ〜
【二】
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「……へ、変じゃない?」
自分よりも遙かに見目麗しい青年らに見上げられ、気恥ずかしさに熱くなる頬。
それをごまかすようにか細い声で尋ねると、じっと咲耶を見つめたまま和彰が口を開いた。
「変ではない」
きっぱりと抑揚なく告げた唇が、ゆるく微笑みを浮かべる。すっ……と、咲耶のほうへ伸ばされた和彰の手が、咲耶の手首をつかんだ。
「……可愛い」
引き寄せられたと同時に告げられた言葉の意味に、頭が追いつかない。
(かわ、可愛いって……! 茜さんの差し金? 絶対そうだよねっ……)
和彰の腕に囲われた状態で、ちらりと仰向けば、青みを帯びた黒い瞳が自分を映していた。
(でも───)
咲耶は頭ではなく心でその単語を繰り返す。『可愛い』は、愛しさがあふれた想いの言の葉だ。
「あ、ありがとう……」
精一杯の想いを返すと、咲耶を抱く和彰の腕にぎゅっと力がこもった。
「分かるわぁ、ハク。アンタも、ホントは咲耶を誰にも見せたくはないのよねぇ?
アタシも昔は、美穂を誰の目にも触れさせたくないって思ったものぉ~……実際に、香火彦に屋敷に閉じこめられるまではね」
咲耶は、和彰の腕のなかから起き上がり茜を見やった。
ふっ……と、彼にしては自嘲的な笑みを浮かべ、手酌の酒を呷る。
まるで、自らが願ったせいで美穂が不幸になったとでもいうように。
「茜さ───」
「ちょっと! お前ひとりでナニ呑んでるんだよ? あたしにも寄越せ!」
咲耶の呼びかけをさえぎり、遅れてやって来た美穂が茜の横にどすんと座りこむ。
「そりゃあ呑みたくもなるでしょうよ、アタシの可愛い仔猫ちゃんが、アタシの側にいないんだものぉ。
もう、さびしかったんだからあ!」
盃を差し出す手に応えながら、わざとらしいくらいの拗ねた口調で言った茜が、美穂にしなだれかかった。
「寄りかかんな、重い!」と、むげにはねのけられる、毎度のことながら愛が報われない哀れな青年の姿に失笑しつつ、咲耶は内心、ホッと息をつく。
(なんだかんだ言って、美穂さんも茜さんを気遣ってるんだよね)
ただ、素直にあらわさないだけだろう。そして、それをお互いに解っているのだ。
「ところで───咲耶は呑まないの?」
「あ~、私、下戸なんだよね」
「とかなんとか言っちゃって、実は酒入ると人が変わったりするんじゃないの? 百合さんみたく」
「や、本当に私、あんまり呑めなくて……」
「───美穂。無理強いしちゃダメよ?」
「分かってるよ。ちょっと言ってみただけじゃん! ……つーか、ハクの視線が痛いしね」
茜にたしなめられ唇をとがらせた美穂が、咲耶の耳にささやく。
百合子にも言われたが、和彰はいったいどんな視線で自分を見ているのかと、心配になってしまう。
(……ただ見てるだけっぽいけど)
美穂との会話のなか、さりげなく冷たい美貌の青年を窺えば、いつも通りの無表情だ。
良いようにとれば、自分を気にかけてくれているということだろうと、咲耶は結論づける。
(……なんだ、もっと熱視線かと思った──っ!)
自分の思いつきに苦笑いを浮かべ盃を口にした咲耶は、そこでむせてしまう。
鼻に抜ける匂いと、のどを熱くする感覚は、久々のものだ。
「……っ、これっ……!」
「あれ? ホントにダメだった? ごめん!」
「…………美穂さん?」
自分よりも遙かに見目麗しい青年らに見上げられ、気恥ずかしさに熱くなる頬。
それをごまかすようにか細い声で尋ねると、じっと咲耶を見つめたまま和彰が口を開いた。
「変ではない」
きっぱりと抑揚なく告げた唇が、ゆるく微笑みを浮かべる。すっ……と、咲耶のほうへ伸ばされた和彰の手が、咲耶の手首をつかんだ。
「……可愛い」
引き寄せられたと同時に告げられた言葉の意味に、頭が追いつかない。
(かわ、可愛いって……! 茜さんの差し金? 絶対そうだよねっ……)
和彰の腕に囲われた状態で、ちらりと仰向けば、青みを帯びた黒い瞳が自分を映していた。
(でも───)
咲耶は頭ではなく心でその単語を繰り返す。『可愛い』は、愛しさがあふれた想いの言の葉だ。
「あ、ありがとう……」
精一杯の想いを返すと、咲耶を抱く和彰の腕にぎゅっと力がこもった。
「分かるわぁ、ハク。アンタも、ホントは咲耶を誰にも見せたくはないのよねぇ?
アタシも昔は、美穂を誰の目にも触れさせたくないって思ったものぉ~……実際に、香火彦に屋敷に閉じこめられるまではね」
咲耶は、和彰の腕のなかから起き上がり茜を見やった。
ふっ……と、彼にしては自嘲的な笑みを浮かべ、手酌の酒を呷る。
まるで、自らが願ったせいで美穂が不幸になったとでもいうように。
「茜さ───」
「ちょっと! お前ひとりでナニ呑んでるんだよ? あたしにも寄越せ!」
咲耶の呼びかけをさえぎり、遅れてやって来た美穂が茜の横にどすんと座りこむ。
「そりゃあ呑みたくもなるでしょうよ、アタシの可愛い仔猫ちゃんが、アタシの側にいないんだものぉ。
もう、さびしかったんだからあ!」
盃を差し出す手に応えながら、わざとらしいくらいの拗ねた口調で言った茜が、美穂にしなだれかかった。
「寄りかかんな、重い!」と、むげにはねのけられる、毎度のことながら愛が報われない哀れな青年の姿に失笑しつつ、咲耶は内心、ホッと息をつく。
(なんだかんだ言って、美穂さんも茜さんを気遣ってるんだよね)
ただ、素直にあらわさないだけだろう。そして、それをお互いに解っているのだ。
「ところで───咲耶は呑まないの?」
「あ~、私、下戸なんだよね」
「とかなんとか言っちゃって、実は酒入ると人が変わったりするんじゃないの? 百合さんみたく」
「や、本当に私、あんまり呑めなくて……」
「───美穂。無理強いしちゃダメよ?」
「分かってるよ。ちょっと言ってみただけじゃん! ……つーか、ハクの視線が痛いしね」
茜にたしなめられ唇をとがらせた美穂が、咲耶の耳にささやく。
百合子にも言われたが、和彰はいったいどんな視線で自分を見ているのかと、心配になってしまう。
(……ただ見てるだけっぽいけど)
美穂との会話のなか、さりげなく冷たい美貌の青年を窺えば、いつも通りの無表情だ。
良いようにとれば、自分を気にかけてくれているということだろうと、咲耶は結論づける。
(……なんだ、もっと熱視線かと思った──っ!)
自分の思いつきに苦笑いを浮かべ盃を口にした咲耶は、そこでむせてしまう。
鼻に抜ける匂いと、のどを熱くする感覚は、久々のものだ。
「……っ、これっ……!」
「あれ? ホントにダメだった? ごめん!」
「…………美穂さん?」
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