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宴もよう〜おまけ〜
【一】
しおりを挟む「これ……すそ短くないかな?」
「……なにソレ、あたしの足が短いって言いたいの?」
「や、美穂さんと私じゃ身長差があるから、そもそもそういうことじゃなくて……」
「いいよね~、ソッチは無駄に胸がデカくて。あたしなんか、このペッタンコな胸のせいで、あいつに最初、男と間違われたんだよ?」
「……そ、そうなの?」
咲耶は、いつも穿いている筒袴よりも大幅に丈が短い筒袴のすそから出ている、自らの太ももをなでつけながら相づちをうった。
……何気に失礼な発言をしている美穂に、突っ込む余裕がいまの咲耶にはない。
傍らで“花嫁”らのやり取りを見守っていた“花子”の少女が、咲耶に姿見を向ける。
「姫さま。よくお似合いですわ。
……少し、丈が短いのが気になりますけど」
「だよね? やっぱりちょっと……」
変じゃない? という言葉を、咲耶はかろうじてのみこむ。
なぜならば、咲耶がいま身につけたこの着物は、茜と美穂からの贈り物だからだ。
「ちょっと何? あたしとお揃いなのが、そんなにイヤなの?」
「えっと、そうじゃなくて、足が……」
普段着として慣れた水干とは違う、変則的な振袖と筒袴。
咲耶が愛用している掛水干同様、本来の様式ではなく、美穂が着やすいよう彼女の“花子”である菊が仕立てたであろうことは、容易に想像がつく。
──そもそもの事の起こりは宴に戻った咲耶が、
「美穂さん、今日の格好可愛いね」
と、深く考えずに言ったのに対し、
「あ、忘れてた。あんたの分もちゃんとあるよ~。猿助、アレ!」
と、自らの“眷属”を呼びつけ美穂が咲耶に手渡してきた物に、宴の席を抜け、こうして自室で着替えるに至ったのだった。
(そりゃ、美穂さんは足が細いからいいけどさ)
ひざ下ならともかく、ひざ上を堂々と人前にさらせるほど咲耶の足は細くはなかった。
「ほら、つべこべ言ってないで行くよ」
渋る咲耶の手を無理やり引っ張り、美穂は宴の席へとずんずんと歩いて行く。
月光はまっすぐに宴の庭に落ちて、場にいるモノたちをほの明るく照らしていた。
“神獣”の“化身”である美貌のふたりの青年も、人の世では異形とされる“眷属”らも。皆、思い思いに過ごしている。
「はーい、注目ぅ! 今夜の主役、登~場~っ。はい、拍手拍手!」
そこへ、赤い“花嫁”が大きな声で告げると、いやが上にも場の視線が咲耶のほうへと集まった。
「お! 咲耶サマ、馬子にも衣装ってヤツだな!」
「よ、よくお似合いです!」
「咲耶さま、おみ足ツヤツヤ!」
盛大な拍手と共に、“眷属”たちが口々に咲耶を持ち上げてくれるのが、逆にいたたまれない。
(いや~ッ。
ナニこのさらし者状態! 恥ずかしすぎるんですけどっ!)
思わず美穂の影に身を隠そうとしたが、小柄な彼女よりも縦にも横にも大きい咲耶が、隠れられるはずもない。
「あら、思ってたより良いじゃない。
そんな所で突っ立ってないで、コッチに来てハクによく見せてあげなさいよ」
「ほら、咲耶!」
どん、と、思いきり背中を美穂に押され足をもつれさせながらも、ようやく咲耶は赤い“神獣”と白い“神獣”の席へとたどり着く。
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