【番外編・完結】神獣の花嫁〜かの者に捧ぐ〜

一茅苑呼

文字の大きさ
上 下
12 / 16
宴もよう〜おまけ〜

【一】

しおりを挟む


「これ……すそ短くないかな?」

「……なにソレ、あたしの足が短いって言いたいの?」

「や、美穂さんと私じゃ身長差があるから、そもそもそういうことじゃなくて……」

「いいよね~、ソッチは無駄に胸がデカくて。あたしなんか、このペッタンコな胸のせいで、あいつに最初、男と間違われたんだよ?」

「……そ、そうなの?」

咲耶は、いつも穿いている筒袴よりも大幅に丈が短い筒袴のすそから出ている、自らの太ももをなでつけながら相づちをうった。

……何気に失礼な発言をしている美穂に、突っ込む余裕がいまの咲耶にはない。

傍らで“花嫁”らのやり取りを見守っていた“花子”の少女が、咲耶に姿見を向ける。

「姫さま。よくお似合いですわ。
……少し、丈が短いのが気になりますけど」

「だよね? やっぱりちょっと……」

変じゃない? という言葉を、咲耶はかろうじてのみこむ。

なぜならば、咲耶がいま身につけたこの着物は、茜と美穂からの贈り物だからだ。

「ちょっと何? あたしとおそろいなのが、そんなにイヤなの?」

「えっと、そうじゃなくて、足が……」

普段着として慣れた水干とは違う、変則的な振袖と筒袴。

咲耶が愛用している掛水干同様、本来の様式ではなく、美穂が着やすいよう彼女の“花子”である菊が仕立てたであろうことは、容易に想像がつく。

──そもそもの事の起こりは宴に戻った咲耶が、

「美穂さん、今日の格好可愛いね」

と、深く考えずに言ったのに対し、

「あ、忘れてた。あんたの分もちゃんとあるよ~。猿助、アレ!」

と、自らの“眷属”を呼びつけ美穂が咲耶に手渡してきた物に、宴の席を抜け、こうして自室で着替えるに至ったのだった。

(そりゃ、美穂さんは足が細いからいいけどさ)

ひざ下ならともかく、ひざ上を堂々と人前にさらせるほど咲耶の足は細くはなかった。

「ほら、つべこべ言ってないで行くよ」

渋る咲耶の手を無理やり引っ張り、美穂は宴の席へとずんずんと歩いて行く。

月光はまっすぐに宴の庭に落ちて、場にいるモノたちをほの明るく照らしていた。

“神獣”の“化身”である美貌のふたりの青年も、人の世では異形とされる“眷属”らも。皆、思い思いに過ごしている。

「はーい、注目ぅ! 今夜の主役、登~場~っ。はい、拍手拍手!」

そこへ、赤い“花嫁”が大きな声で告げると、いやが上にも場の視線が咲耶のほうへと集まった。

「お! 咲耶サマ、馬子にも衣装ってヤツだな!」

「よ、よくお似合いです!」

「咲耶さま、おみ足ツヤツヤ!」

盛大な拍手と共に、“眷属”たちが口々に咲耶を持ち上げてくれるのが、逆にいたたまれない。

(いや~ッ。
ナニこのさらし者状態! 恥ずかしすぎるんですけどっ!)

思わず美穂の影に身を隠そうとしたが、小柄な彼女よりも縦にも横にも大きい咲耶が、隠れられるはずもない。

「あら、思ってたより良いじゃない。
そんな所で突っ立ってないで、コッチに来てハクによく見せてあげなさいよ」

「ほら、咲耶!」

どん、と、思いきり背中を美穂に押され足をもつれさせながらも、ようやく咲耶は赤い“神獣”と白い“神獣”の席へとたどり着く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する

雨香
恋愛
美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。最終話まで書き終わったので7:00と19:00の1日2回に戻します! ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。  「シェイド様、大好き!!」 「〜〜〜〜っっっ!!???」 逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

【完結】「聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした」

まほりろ
恋愛
 聖女として召喚された女子高生は、王子との結婚を餌に修行と瘴気の浄化作業に青春の全てを捧げる。  だが瘴気の浄化作業が終わると王子は彼女をあっさりと捨て、若い女に乗 り換えた。 「この世界じゃ十九歳を過ぎて独り身の女は行き遅れなんだよ!」  聖女は「青春返せーー!」と叫ぶがあとの祭り……。  そんな彼女を哀れんだ神が彼女を元の世界に戻したのだが……。 「神様登場遅すぎ! 余計なことしないでよ!」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿しています。 ※カクヨム版やpixiv版とは多少ラストが違います。 ※小説家になろう版にラスト部分を加筆した物です。 ※二章に王子と自称神様へのざまぁがあります。 ※二章はアルファポリス先行投稿です! ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて、2022/12/14、異世界転生/転移・恋愛・日間ランキング2位まで上がりました! ありがとうございます! ※感想で続編を望む声を頂いたので、続編の投稿を始めました!2022/12/17 ※アルファポリス、12/15総合98位、12/15恋愛65位、12/13女性向けホット36位まで上がりました。ありがとうございました。

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 「番外編 相変わらずな日常」 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】  

処理中です...