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宴もよう〜花嫁に告ぐ〜

【三】

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「当時の美穂の心境は解らぬが……少なくとも私が知る限り、この二十数年間は自身が犯した罪の代償として“禁忌”を受け入れていたようだ」

「そうですか……」

美穂の“神力”も百合子の“神力”も。そして、咲耶が手にしている“神力”も。
元を正せば、この“下総ノ国”の“神獣かみ”の力だ。自分たちは、それを代行する者でしかない。

咲耶は和彰という“神獣”の依代よりしろになった経験上、自分が代行している力が彼らのもつ本来の力の一部にしか過ぎないことを、知っている。

(私が願えば、和彰は和彰自身のもつすべての力で、応えてしまう)

“下総ノ国”中に、癒やしの風を吹かせたように。
咲耶は改めて、自分の心を律することの重要さを理解した。

「ところで」

くい、と、盃を空けた百合子が咲耶の背後を見やる。

「己の男を心配してやれ。さっきから視線が痛くてたまらぬ」

からかうような口調は、咲耶の神妙な想いを察してのことだろう。
咲耶は、百合子に気を遣わせてしまったことに申し訳なく思いつつ、うなずく。

「……はい。じゃあちょっとだけ、失礼しますね」

百合子に酌をしてから、咲耶は左隣の膳を二つ挟んだ先にいる和彰に近寄った。

「……ゴメンね、ひとりにして」

「私の元に来ていていいのか」

「うん。百合子さんが気を遣ってくれたみたい。……さびしかった?」

「寂しい……?」

不可解そうに柳眉がひそめられた時、椿に声をかけられた。

「姫さま。セキ様とその“対の方”様がお見えになりました」

「本当? 良かった……。ふたりが何事もなく、無事に来られたのなら」

「いえ、何事も……とは、少し違うような気も……いたしますが……」

椿が言葉をにごす様に、咲耶は一瞬、良からぬ心配をしかけたが、しっかり者の少女が笑いをこらえているのが解り、ホッとする。

直後、美穂のものと思われる怒鳴り声が、こちらに近づいてきた。

「ちょっと! もういいっての! いい加減に下ろせバカッ!」

振り返った咲耶の目に入ったのは、緋色の振袖姿の少女を横抱きにした、あでやかな美貌の青年。

「言われなくても下ろすわよ。うるさい子ねぇ」

めずらしく装いは、緋色を基調とした狩衣と黒い指貫という『男装』なのだが、その口調は相変わらずのセキコ・茜であった。

「───ああ、咲耶。お招きありがとう。アタシたちの席はソコかしら?」

「ご無沙汰してます、茜さん。えっと、あの……」

「この子? 美穂よ、間違いなく。かもじ付けてるだけ」

とまどう咲耶に気づいて、茜が念を押してくれる。
というのも、茜の腕に抱かれた少女の顔は見えず、咲耶から見える後ろ髪が、長く垂れ下がっていたからだ。

「今晩は、美穂さん」

「…………遅くなって、ゴメン」

声をかけると、仏頂面の横顔で、気まずそうに応えてくれた。

そうして、茜と美穂が座席に腰を下ろしたところへ、椿が桶と手拭いを持ってやってきた。

「薬はいらないわ。曲がりなりしも“神籍”にあるんだから、冷やすだけで充分よ。ありがとう」

小さなつぼを差し出す椿に対し、茜が片手で制しながら微笑む。
咲耶はその言葉に、美穂と茜を交互に見た。
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