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❖終章
新しい舞台の、幕が上がる【2】
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大机の前に並び立ったふたりを見て、響子は微笑んだ。
「そうかい。まぁ、いつかはこんな日が来るとは分かっていたが……まさか、よりにもよって『王女』を引き抜いていくとはね。
さすがは『狼族』って言うべきかね?」
「……恩を仇で返すようで、申し訳ございません」
清史朗は恐縮して頭を下げる。
響子は片手を振った。
「よしとくれよ。エゾの旦那とは、最初からそういう約束だったからね。
……“歌姫”を育てるノウハウを教わる代わり、お前さんがこれと見込んだ“歌姫”を“第五劇場”に一人だけ連れ帰るってね」
清史朗の隣にいるシェリーへと視線を移す。
「淋しくなるね。あんたはウチの稼ぎ頭ってだけじゃない。後輩の育成にも惜しまずに手を貸してくれた。
……感謝してるよ。幸せになっとくれ」
響子の言葉に、シェリーはたおやかに微笑む。
「ご心配なく、マダム。私、今でも十分、幸せですわ」
「そうだね。……シロー、泣かせんじゃないよ?」
「お言葉を返すようで恐縮ですが、どちらかというと私が泣かされる方かと……」
清史朗が苦笑いすると、響子は声を立てて笑った。
「違いない!」
「あら。どういう意味かしら、シロー?」
軽くにらむ真似をするシェリーに、清史朗はあっさりと切り返す。
「あなたは、罪つくりな方だということですよ。
───では、マダム。近々、父の方からも、挨拶させていただくことになるかと思いますが、『王女』の転属の件、よろしくお願い致します」
「あぁ、涼子に言って、手続きを急がせるよ。
それにしても、結婚してから『禁忌』に就かせるなんて荒技、よくやる気になったねぇ」
「『禁忌』の自由恋愛は処罰の対象となっていますが、既婚者が『禁忌』に就いてはならない、とはありませんからね。
実際、数十年前に“第二劇場”にいた『禁忌』は、人妻でしたし」
「ありゃ『狐族』の“純血種”だったからだろ。
……まぁ、反論材料にはなるだろうがね。
そのあたりの《知識》は、お前さんとこのが詳しいだろうし、アタシも心配してないさ。ま、いいようにやっとくれよ」
「恐れ入ります」
清史朗は微笑んで、深く頭を下げる。
シェリーもおもむろに、響子に一礼してみせた。
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