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第六章 ふたりで奏でる最高の舞台
甘美な歌声──『愛のあいさつ』【4】
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「あぁ、君。ちょっと、いいかな?」
泰造が去ったのち、各テーブルを回ろうとしていた慧一に、声がかかった。
『狼族』の“純血種”、狼原誠司だった。
一礼して、慧一はテーブルへと歩み寄る。
「はい、承ります」
「彼女……『禁忌』の未優さんだが、来年の一月に行われる“女王選出大会”に出場する予定は、あるのかな?」
「……おそらく、そうなるかと存じますが」
まだ客の投票の集計結果が出たわけではないが、昨日の“連鎖舞台”と今日の“連鎖舞台”の反響を考えれば、おのずと結果は導きだされている。
「そうか。
───昨夜の『少夜啼鳥』も、確かに良かった。
歌唱力、語り、踊りと……“主演歌姫”のふたりに、甲乙はつけがたかったよ。だがね」
狼原は、自らの胸を押さえて微笑んだ。
「ここに……この胸に、幸福な気持ちを味わわせてくれたのは、今夜の『人魚姫』の彼女、未優さんだ。
彼女の歌声は、実にいい。悲劇を悲劇で終わらせず、観る者に希望を与える。
それは……とても素晴らしい才能だよ。
“第三劇場”にだけ縛られるのは、もったいない。ぜひ『女王』になって、各地の“劇場”を回って欲しいものだ。
そのために、及ばずながら私も尽力しよう。大会への推薦状を、書かせてもらいたい」
『狼族』の“舞台”への発言力は、絶大だ。その“純血種”ともなれば、さらに影響も大きい。
慧一は、丁重に申し出を受け入れた───。
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