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第六章 ふたりで奏でる最高の舞台
甘美な歌声──『愛のあいさつ』【2】
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「……やってくれたな」
鳴り止まない拍手と歓声が響くなか、それらにかき消されそうなほどの低く苦々しげな声を、泰造は発した。
テーブルの上には、プログラムと、数枚の書類が置かれていた。
その文面のなかに『廃嫡』『素行不良』という文字が見える。
「未優は、当主の器ではありません。それはあなたが、一番よくご存じのはずでしょう?」
「しかし、あれは最後のイリオモテの女だ。それを……廃嫡するなどと、君は……!」
「───確かに、未婚で若く……出産適齢期の女性は、彼女しかいません。しかし、女性がいないわけではない。
実際、私の叔母は、今、第三子を懐妊中ですし」
泰造は慧一に向き直った。にらみながら、告げる。
「我が一族に女が生まれる確率が少ないのも、君は知っているはずだ。誰かが孕めば良いということではない!」
「……それほど血筋にこだわるというのなら、よその“種族”でもやっている体外受精や顕微鏡受精にでも踏み切りますか。
もちろん、卵子の提供は、お嬢さんにお願いすることになるかと思いますが」
「君は……! 君は本当に、真顔でさらっと、非道いことを言ってのけるな……!」
泰造はあきれ果てて、物が言えなくなった。
なんてことだ。こんな男に危うく可愛い娘を差しだすところだった……。
彼の方から婚約を破棄してくれたことは、不幸中の幸いだ。
「未優は、《猫山の家》に必要のない人間です。
……少なくとも、ただの《女》としての価値は、イリオモテの血をひく娘というだけで、何もない。
あなたは『山猫族』の存続を憂えるが、それなら、ツシマに代わってもらえばいいだけのこと。
何も、『山猫族』の“血統”は、イリオモテだけではありませんしね。
けれども───」
歓声と拍手が、ひときわ高くあがる。カーテンコールが行われていた。
未優の誇らしげな顔が、薄型の映像機に映しだされる。
「《ここでなら》、彼女は特別な人間になる。あなたも個人的な付き合いなどで、“舞台”をたくさん観てきているはず。
なら、解るはずだ。彼女が、いかに素晴らしい“歌姫”になる可能性を、秘めているかが」
強い口調で語る慧一を、泰造は驚いて見返した。
眼差しにこめられた意志の光に、射ぬかれる。
ようやく泰造は、慧一の真意に気がついた。
……どうやら、自分の目に狂いはなかったようだ。たとえ、娘婿には向かなくとも。
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