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第六章 ふたりで奏でる最高の舞台
報われない恋と献身的な愛【2】
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“連鎖舞台”は、五十音順の演目で行われるのが常である。
つまり、前回は『灰かぶり』『ラプンツェル』の順で、今回は『少夜啼鳥』『人魚姫』という順番だ。
(綾さんの“舞台”観た翌日に、演るだなんて……)
どうせなら、逆が良かったと未優は思った。だが、嘆いても仕方がない。
そう自分に言い聞かせたとき、テーブルを挟んで真向かいに腰かけていた留加が言った。
「始まるな」
静かな声音に、客席と舞台が窺えるそこから、未優は下方に目を向けた。
真っ暗になった客席が徐々に静けさを増し、ゆっくりと緞帳が上がっていく。
響子からすすめられ、“第三劇場”特別仕様の観覧席から、未優は綾の“舞台”の模様を観ることになったのだ。
小スペースのそこは、V.I.P席のようにディナーも楽しむことができるテーブル席だが、もちろん未優にそんな余裕はない。
開演前に、接待係である慧一が「ついでだ」と言って、アイスティーを二つ、持ってきてくれてはあったが。
『少夜啼鳥』は、ナイチンゲールの和名である。鳴き声の美しさから歌姫に例えられる鳥だ。
ある青年に恋した《彼女》は、青年が赤いバラを探しているのを知る。
しかし、見つけたバラの色は白。
《彼女》は、自分の身を犠牲にし白バラを赤く染め、彼の手に渡らせる。
『我が愛しの君。この深紅のバラを、あなたに捧げます。どうぞ、受け取ってください』
第一幕から第三幕は、主人公・ナイチンゲールの美声を、まさしく「歌」で伝えようとし、『声優』三人が魅惑の歌声と、悲劇を予感させる音楽とで物語をつづった。
そして、綾の演じる終幕は一変して、よどみない語りと優美な動きでナイチンゲールの最期と、悲劇とを彩った。
『なんということだ。ようやく見つけたこの一輪のバラの花も、あなたは受け取ってくださらないのですね』
青年の嘆きの語りから、深紅のバラの花に宿ったナイチンゲールの魂へと、綾は、無駄のない動きと歌声で、表していく。
高音で奏でられる嘆きの旋律は青年の声をヴァイオリンが、ナイチンゲールの想いを綾が歌い、そうして幕は閉じられた……。
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