【完結】婚約者も求愛者もお断り!欲しいのは貴方の音色だけ

一茅苑呼

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第六章 ふたりで奏でる最高の舞台

王女の秘密と意趣返し【2】

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「綾さんはさ~、そりゃ美人だし語りも上手いよ? だけど、いっつも不機嫌そうっていうか~。

能面女! って感じで、表情がねぇ~。まぁ“歌姫”の“舞台”は表情あんま関係ないっちゃ、ないんだけど」

(……能面女……)

愛美の言いぐさに、ふと綾の顔を思いだす。涼しげな美人だ。

しかし、愛美の言うように、常にピリピリとした空気を身にまとっていて、近寄りがたい。

「嫌い」と言われた一件を抜きにしても、お世辞にも愛想がいいとはいえなかった。

「ねっ? だから未優、あの綾さんに、いっぺんギャフンっていわせてやんなきゃ!
世の中とんがってばかりだと、誰にも相手にされなくなるってね」

未優は困ってしまった。

確かに、綾との競い合いの場に出ることには、納得している。

だが、相手をやり込めようとか相手の上を行こうとは、正直思っていなかったからだ。

「あのね、愛美。あたし、別に綾さん負かしてやろうっていう気持ちは、ないんだ。

あたしはあたしのできることをして、その上で、お客さんを喜ばせることができたらいいなって、思ってる」

自分にできることなど、たかが知れている。

歌うこと、踊ること。それが、未優が今まで身につけてきたものだ。

それを“舞台”で表現する。結果は、あとからついてくるもの───。

「だけど、それって」

「甘いわね。そんな綺麗ごと、通用するような世界じゃないわ」

ぴしゃりと自分の中での迷いを指摘され、未優はどきっとする。

シェリーだった。未優を見据えて、近づいてくる。

「あなたは『女王』になりたいんでしょ? 『女王』が唯一無二なのは知ってるわね? それはつまり、数多あまたの“歌姫”を押し退けて、蹴落とすことを意味するわ。
本人の意識はどうであれ、ね。そのくらいの覚悟をもって、臨みなさい」

「シェリーさん……」

うわ、迫力ある~……と、愛美が未優の後ろに隠れながらつぶやく。

未優は息をのんで、そんなシェリーを見返した。
すると、シェリーは瞬間的に表情をくずし、くすっと笑った。

「……なんてね。“女王選出大会”への出場を辞退した私が言っても、説得力はないかしら?」

「いえ、そんなこと……!」

未優は首を振った。シェリーの言うことは、もっともだと思ったからだ。

「それなら、良かったわ。今回、私は休演させてもらうわけだから、あなたさえ良ければ、また一緒に練習しましょうね」

やわらかな笑みを向けられて、未優は一瞬、ぽやーんとなりかけたが、すぐに気になっていたことを訊いてみた。

「あのっ、シェリーさんは、どうして『女王』になる気がないんですか?」

シェリーは真顔になった。
訊いてはならないことを訊いてしまったのかと未優はあせったがあとの祭りだ。

ややしてシェリーは、あでやかな笑みを浮かべ答えてくれた。

「あなたに望むものがあるように私にも……望みが、あるからよ」



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