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第五章 女王への道

初めから、君のために【1】

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(留加……?)

目を覚ました未優は、あたりを見回す。自分の部屋だった。

起き上がると、四肢はしっかりとシーツを踏みしめていた。ベッドの上だ。

(……留加が連れて来てくれたのかな……?)

未優は記憶をたぐり寄せ、“変身”の前に、留加にいろいろと言ってしまったことを思いだす。

(どうしよう……ものすごく感情的になっちゃった気がする……)

子供じみた非難や、我がままとしか受け取ってもらえないだろう、あれこれを。

と、その時、足音が未優の部屋へと近づいてくるのが解った。

人の耳では聴こえないそれも、獣の今なら、よく聴こえる。

足音は、未優の部屋の前で止まった。

「……未優、少し話がしたい。入ってもいいだろうか?」

(留加だっ……!)

未優は身を縮めた。
さきほどの自分の態度を思い返すと、恥ずかしくてたまらなかった。

だが、
「未優?」
扉の向こう、さらに奥の方から聴こえてくる、くぐもった留加の声に、意を決して寝室を出た。

室内は、部屋の主が獣になった時のために、低い位置でピアスを感知すると、自動に扉が、わずかだが開くようにできている。

『いいよ、留加。入って』

未優は声にしたが、当然、口からもれたのはニャーニャーという鳴き声である。

しかし、留加に伝わるには十分だったらしく、室内に入ってきた。

留加は一瞬、未優の姿を探しかけた。
が、すぐに、自分の足元からいくらも離れていない位置にいる、イリオモテヤマネコに気づく。

「夜分に、すまない」

未優は首を振った。
テーブルの側の椅子に飛び乗ってそれから降りる。

留加に座ってくれと、伝えたつもりだった。留加は心得たように腰かけた。

「最初に断っておいた方がいいと思うから言うが……未優、君の《声》は、おれに届いてる」

『えっ、嘘っ、なんで……!?』

ぴん、と、『山猫』の尾が伸びる。

留加は苦笑した。

「君は以前、感覚系の能力が《人並み》しかないと言っていたな。おそらく、それが関係しているんだろう。

本来なら《人型》でも働くはずの《獣》としての聴覚や嗅覚の代わりに、獣の《声》を読みとったり、伝えたりする能力が発達しているんじゃないのか?

そういう《能力》をもつ者がいるというのを、どこかで聞いたことがある」

『……それって、思考だだもれってコト?』

獣の姿でも、留加と意思の疎通ができるのは有難いが、何もかもが伝わってしまうのは、避けたかった。

「聞こえてる感じとしては、おれに伝えようとしている《言葉》のようだから、君に伝えようとする気がなければ問題ないんじゃないか?」

未優は複雑な気分だった。

貴重な《能力》のように留加は言ったが、素直に喜べない。
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