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第四章 連鎖舞台

薔薇の微笑み【2】

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†††††


母親が『アヴェ・マリア』を弾いている時、留加は家に入ることをためらう。
それは、母親が父親を想って弾いているのを知っているからだ。

くるり、と、留加は、きびすを返した。

ヴァイオリンケースを抱えたまま来た道を戻って行く。
木枯らしが吹いていた。

「寒いわね」

首をすくめた時、頭の上からそんな声がして、次いでマフラーを巻かれた。

仰ぎ見れば、毛糸の帽子を被った褐色の肌の少女が、こちらを見ていた。

白金の長い髪が風にあおられて、生き物のように宙を舞う。

「あなた、いつもこの辺りでヴァイオリンを弾いている子よね? 名前は?」

「…………留加」

首にあるマフラーに留加はとまどい、少女とマフラーを交互に見つめる。

少女が笑って言った。

「しばらく貸してあげる。
……その代わり、暖まったら、私のために一曲弾いてもらってもいいかしら」

「わかった」

こくん、と、素直にうなずく留加の指先をつかんで、少女は息を吹きかける。
驚いて見返す留加に、少女はふたたび笑った。

「指が動かなかったら、ヴァイオリン、弾けないでしょ?」

もっともだ、と思って、留加はまたうなずいた。

こちらに目線を合わすように、腰をかがめた少女の、伏せられた長いまつ毛を見ながら訊く。

「お姉さんの、名前は?」

「───シェリーよ」

言って向けられた艶やかな笑みは、父親が育てていた真紅のバラの花を、留加に思いださせた。




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