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第四章 連鎖舞台

共存関係【3】

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「いいんですか? あたしがこれをいただいても……」

「持っててもどうせ着ないしね。あたし“舞台”に立つ気ないから」

未優は、さゆりが前回行われた“連鎖舞台”のメンバー決めの試験を、受けていなかったのを思いだす。

そして、他の“歌姫”たちから「万年『踊り子』」と揶揄やゆされていることも。

「……あんたからすると、あたしが“舞台”にあがりたがらないのは『なんで?』って言いたくなるのかもね。
でもさ、あたしからすると、あんたの方が『なんで?』ってカンジなのよ」

とまどって見返す未優に対し、さゆりは、ふっと笑ってみせた。

「あたしは、“歌姫”として客をとることを嫌だと思ったことはない。あたしと寝て喜んでもらって満足した客が、その対価をあたしに払う。

ただ身体を開いて受け入れるだけの行為なら、確かに性欲処理の相手をしているだけかもしれない。
けど、その相手の望むものや抱えているものをさらけださせるための手段の一つとして、あたしは「娼婦」ってものを考えてる。

別にそれは、他のサービス業でだって可能なことだとは思うよ? ただ、あたしには、このやり方が合ってるってだけでさ。
しかも、収入がいいってなれば、言うことないし。だからあたしは、“歌姫”を続けてる。
他の連中に何を言われても」

ふふん、と、さゆりは得意げに鼻を鳴らす。

「あたしは“舞台”にはほとんど立たないけど、お客さんの指名率は高いんだよ? それって、あたしのサービスが良いからだって、あたしは自負してる。

未優、あんたが客をとらずに“舞台”でお客さんを楽しませてあげるように、あたしは“舞台”には立たないけど、《裏の》舞台で客を喜ばせてる。
お互いに、どっちかが欠けてるけど、でも、そういう“歌姫”がいたって、いいじゃん」

未優はようやく、さゆりの言いたいことが解って、微笑んだ。

(あたしに譲れないものがあるように、さゆりさんにも、それがある……)

「えぇっと……それはつまり、あたしができないことをさゆりさんにしてもらって、さゆりさんが望まないことをあたしがするという……」

「共存関係ってヤツ? やっと言葉がでてきたよ……。
あぁ、あたし、自分の思ってるコト相手に言葉で伝えるの、苦手なんだよね。おまけにあんた、鈍いしさぁ」

「……ご、ごめんなさい……!」

恐縮する未優に、さゆりは真顔でパタパタと手を上下に振った。

「冗談だよ。
───じゃ、あたし行くね。今日の夕食当番だし」

「あのっ、ドレス、ありがとうございます! すごく嬉しかったです!」

「……そんなにデカイ声ださなくても聞こえるよ」

ぶっきらぼうに言い切って、さゆりは部屋を出て行った。
未優は頭を下げ、そんなさゆりにもう一度、感謝する。

「本当に、ありがとうございました!」

───さゆりの心遣いが、嬉しかった。



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