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第四章 連鎖舞台

共存関係【2】

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「だって、あの“希少種”のアムールトラの“純血種”なんだよ? これが王子でなくてなんなのよー。
でも気取ってないし優しいしぃ……いいよね~薫サマ。一度、夜のお相手、してくれないかな~? なにげにエッチうまそうだしぃ」

(ぎゃーっ)

未優は思わず耳をふさいだ。
やはり『虎族』は《そういう“種族”》なのだと再確認する。

「やっぱさぁ、たまには若い人とシたいじゃん? オヤジばっか相手にしていると。
そりゃ紳士なオジサマ~もいるし、それはそれでテクとかすごかったりするけど───」

未優は目もつぶった。
駄目だ、話題についていけない。どうしよう?

「もうそのくらいにしてやったら? その子、『禁忌』なんだし」

抑揚のない暗く低い声。
未優は驚いて目を開け、その声の持ち主を見上げた。

短い黒髪に、青みががった灰色の瞳をもつ長身の少女───『踊り子』のさゆりだった。

「わっ。そうだった! ゴメン! 未優、大丈夫? この手の話って、やっぱ気分悪くなるもん?」

「あ、その……苦手ってだけで……話題についていけなくて、こっちこそ、ごめんね」

「なによ~、謝んないでよぉ。『禁忌』相手にまさしくタブーなこと言ったの、あたしなんだから!
ついノリで話しちゃって……。これからは気をつけるね? ホント、ごめん」

心配そうに、藍色の瞳がこちらを見ている。

未優は急に、申し訳ない気分になった。薫が言っていた今の『禁忌』の現状を思いだしたからだ。

(性的な心的外傷トラウマを負ってるって、思われてるんだ……)

だから「娼婦」にはなれない。その方が、確かに周囲は納得できるだろう。
少なくとも「“純血種”だから」という理由よりは。

(あたしずっと、こうやってみんなをだまして“歌姫”をやっていくのかな……)

そう思うと、未優の心は沈んだ。
“舞台”で実力を示しても、まだ満たされない想いが残るとは。

「未優、やっぱ顔色悪いね。まさるおじいちゃんのとこ、行く?」

「あんた買いだし当番でしょ。もう行った方がいいんじゃない?夕方のタイムセール始まっちゃうよ。
この子はあたしが医務室に連れて行っとくから」

「えー? うーん……ごめん、未優。さゆりさんにあと任せちゃうね? じゃ、さゆりさん、お願いねー」

なおも心残りな表情を見せながらも、愛美は去って行った。

談話室へ向かう通路の途中、未優はさゆりをやるせない気分で見上げる。

「あの……あたし、一人でも平気です」
「だろうね。見りゃ分かる。それより、あんたスリーサイズいくつ?」
「へ?」

質問の意図が解らず、未優はぽかんとさゆりを見返した。表情を変えず、さゆりがふたたび問う。

「スリーサイズ。いくつ?」

そっけなく言われ、おうとつのない自分の身体をうらめしく思いつつ、未優は重い口を開いた。

「……あっそ。あたしとそんなに変わんないね。胸がちょっと空きそうだけど、パッド詰めときゃいいだろうし。
じゃ、十分後にあんたの部屋行くから。待ってて」

言うなり、さゆりは身をひるがえした。方向から察するに、“歌姫寮”に行ったようだ。

(いったい、なんなの……)

不審には思ったものの、未優は言われた通り、自室でさゆりを待つことにした。

やがてさゆりが、手に何着かの色とりどりのドレスを持って現れた。

「はい、あんたにあげる。お客さんに買ってもらったモンだけど」

「え? ど、どうして……?」

「これからあんた、“舞台”に立つ機会が増えるだろうし。“舞台料”が入るのは、まだ先だろうから、衣装だって買えないでしょ。
《着たきりスズメ》もなんだし間に合わせにコレ着とけば」

淡々とさゆりが応える。未優は、まだ状況がのみこめなかった。
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