65 / 101
第四章 連鎖舞台
共存関係【2】
しおりを挟む
「だって、あの“希少種”のアムールトラの“純血種”なんだよ? これが王子でなくてなんなのよー。
でも気取ってないし優しいしぃ……いいよね~薫サマ。一度、夜のお相手、してくれないかな~? なにげにエッチうまそうだしぃ」
(ぎゃーっ)
未優は思わず耳をふさいだ。
やはり『虎族』は《そういう“種族”》なのだと再確認する。
「やっぱさぁ、たまには若い人とシたいじゃん? オヤジばっか相手にしていると。
そりゃ紳士なオジサマ~もいるし、それはそれでテクとかすごかったりするけど───」
未優は目もつぶった。
駄目だ、話題についていけない。どうしよう?
「もうそのくらいにしてやったら? その子、『禁忌』なんだし」
抑揚のない暗く低い声。
未優は驚いて目を開け、その声の持ち主を見上げた。
短い黒髪に、青みががった灰色の瞳をもつ長身の少女───『踊り子』のさゆりだった。
「わっ。そうだった! ゴメン! 未優、大丈夫? この手の話って、やっぱ気分悪くなるもん?」
「あ、その……苦手ってだけで……話題についていけなくて、こっちこそ、ごめんね」
「なによ~、謝んないでよぉ。『禁忌』相手にまさしくタブーなこと言ったの、あたしなんだから!
ついノリで話しちゃって……。これからは気をつけるね? ホント、ごめん」
心配そうに、藍色の瞳がこちらを見ている。
未優は急に、申し訳ない気分になった。薫が言っていた今の『禁忌』の現状を思いだしたからだ。
(性的な心的外傷を負ってるって、思われてるんだ……)
だから「娼婦」にはなれない。その方が、確かに周囲は納得できるだろう。
少なくとも「“純血種”だから」という理由よりは。
(あたしずっと、こうやってみんなをだまして“歌姫”をやっていくのかな……)
そう思うと、未優の心は沈んだ。
“舞台”で実力を示しても、まだ満たされない想いが残るとは。
「未優、やっぱ顔色悪いね。勝おじいちゃんのとこ、行く?」
「あんた買いだし当番でしょ。もう行った方がいいんじゃない?夕方のタイムセール始まっちゃうよ。
この子はあたしが医務室に連れて行っとくから」
「えー? うーん……ごめん、未優。さゆりさんにあと任せちゃうね? じゃ、さゆりさん、お願いねー」
なおも心残りな表情を見せながらも、愛美は去って行った。
談話室へ向かう通路の途中、未優はさゆりをやるせない気分で見上げる。
「あの……あたし、一人でも平気です」
「だろうね。見りゃ分かる。それより、あんたスリーサイズいくつ?」
「へ?」
質問の意図が解らず、未優はぽかんとさゆりを見返した。表情を変えず、さゆりがふたたび問う。
「スリーサイズ。いくつ?」
そっけなく言われ、おうとつのない自分の身体をうらめしく思いつつ、未優は重い口を開いた。
「……あっそ。あたしとそんなに変わんないね。胸がちょっと空きそうだけど、パッド詰めときゃいいだろうし。
じゃ、十分後にあんたの部屋行くから。待ってて」
言うなり、さゆりは身をひるがえした。方向から察するに、“歌姫寮”に行ったようだ。
(いったい、なんなの……)
不審には思ったものの、未優は言われた通り、自室でさゆりを待つことにした。
やがてさゆりが、手に何着かの色とりどりのドレスを持って現れた。
「はい、あんたにあげる。お客さんに買ってもらったモンだけど」
「え? ど、どうして……?」
「これからあんた、“舞台”に立つ機会が増えるだろうし。“舞台料”が入るのは、まだ先だろうから、衣装だって買えないでしょ。
《着たきりスズメ》もなんだし間に合わせにコレ着とけば」
淡々とさゆりが応える。未優は、まだ状況がのみこめなかった。
でも気取ってないし優しいしぃ……いいよね~薫サマ。一度、夜のお相手、してくれないかな~? なにげにエッチうまそうだしぃ」
(ぎゃーっ)
未優は思わず耳をふさいだ。
やはり『虎族』は《そういう“種族”》なのだと再確認する。
「やっぱさぁ、たまには若い人とシたいじゃん? オヤジばっか相手にしていると。
そりゃ紳士なオジサマ~もいるし、それはそれでテクとかすごかったりするけど───」
未優は目もつぶった。
駄目だ、話題についていけない。どうしよう?
「もうそのくらいにしてやったら? その子、『禁忌』なんだし」
抑揚のない暗く低い声。
未優は驚いて目を開け、その声の持ち主を見上げた。
短い黒髪に、青みががった灰色の瞳をもつ長身の少女───『踊り子』のさゆりだった。
「わっ。そうだった! ゴメン! 未優、大丈夫? この手の話って、やっぱ気分悪くなるもん?」
「あ、その……苦手ってだけで……話題についていけなくて、こっちこそ、ごめんね」
「なによ~、謝んないでよぉ。『禁忌』相手にまさしくタブーなこと言ったの、あたしなんだから!
ついノリで話しちゃって……。これからは気をつけるね? ホント、ごめん」
心配そうに、藍色の瞳がこちらを見ている。
未優は急に、申し訳ない気分になった。薫が言っていた今の『禁忌』の現状を思いだしたからだ。
(性的な心的外傷を負ってるって、思われてるんだ……)
だから「娼婦」にはなれない。その方が、確かに周囲は納得できるだろう。
少なくとも「“純血種”だから」という理由よりは。
(あたしずっと、こうやってみんなをだまして“歌姫”をやっていくのかな……)
そう思うと、未優の心は沈んだ。
“舞台”で実力を示しても、まだ満たされない想いが残るとは。
「未優、やっぱ顔色悪いね。勝おじいちゃんのとこ、行く?」
「あんた買いだし当番でしょ。もう行った方がいいんじゃない?夕方のタイムセール始まっちゃうよ。
この子はあたしが医務室に連れて行っとくから」
「えー? うーん……ごめん、未優。さゆりさんにあと任せちゃうね? じゃ、さゆりさん、お願いねー」
なおも心残りな表情を見せながらも、愛美は去って行った。
談話室へ向かう通路の途中、未優はさゆりをやるせない気分で見上げる。
「あの……あたし、一人でも平気です」
「だろうね。見りゃ分かる。それより、あんたスリーサイズいくつ?」
「へ?」
質問の意図が解らず、未優はぽかんとさゆりを見返した。表情を変えず、さゆりがふたたび問う。
「スリーサイズ。いくつ?」
そっけなく言われ、おうとつのない自分の身体をうらめしく思いつつ、未優は重い口を開いた。
「……あっそ。あたしとそんなに変わんないね。胸がちょっと空きそうだけど、パッド詰めときゃいいだろうし。
じゃ、十分後にあんたの部屋行くから。待ってて」
言うなり、さゆりは身をひるがえした。方向から察するに、“歌姫寮”に行ったようだ。
(いったい、なんなの……)
不審には思ったものの、未優は言われた通り、自室でさゆりを待つことにした。
やがてさゆりが、手に何着かの色とりどりのドレスを持って現れた。
「はい、あんたにあげる。お客さんに買ってもらったモンだけど」
「え? ど、どうして……?」
「これからあんた、“舞台”に立つ機会が増えるだろうし。“舞台料”が入るのは、まだ先だろうから、衣装だって買えないでしょ。
《着たきりスズメ》もなんだし間に合わせにコレ着とけば」
淡々とさゆりが応える。未優は、まだ状況がのみこめなかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】【R18】この国で一番美しい母が、地味で平凡な私の処女をこの国で最も美しい男に奪わせようとしているらしい
魯恒凛
恋愛
富と権力を併せ持つ、国一番の美人であるマダムジョスティーヌからサロンへの招待状を受け取ったテオン。過ぎたる美貌のせいで出世を阻まれてきた彼の後ろ盾を申し出たマダムの条件は『九十九日以内に娘の処女を奪うこと』という不可解なもの。
純潔が重要視されないこの国では珍しい処女のクロエ。策略を巡らせ心と体を絆そうとするテオンだったが、純朴な彼女に徐々に惹かれてしまい……
自分に自信がない自称不細工な女の子が稀代のモテ男に溺愛されるお話です。
※R18は予告なしに入ります。
※ムーライトノベルズですでに完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる