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第四章 連鎖舞台
共存関係【1】
しおりを挟むホワイトボードの公演スケジュール表に、未優の名前が記入された。
基本スケジュールでは『声優』の“地位”の者が入っている日程だ。
未優は、“連鎖舞台”においての客の要望により、平日に再演することが決まったのである。
(ひとつの“舞台”に立って、それが評価されれば、また次の“舞台”につながるんだ……)
そうして“舞台”を積み重ね、未優が『禁忌』の“地位”にふさわしいということを、周囲に認めてもらうのだ。
うん、と、自らに言い聞かせるようにうなずき、未優が踊りの練習を再開しようとした時、トレーニングルームの扉が開いた。
「あ、未優。良かったら、一緒してもいい?」
オレンジ色の巻髪を肩下まで伸ばした少女が、未優を見て人懐っこく微笑む。
『偶像』の愛美だった。
「日程、見てたの? お互い、たくさんリクエストもらえたみたいで、良かったねぇ。
未優、この間が初“舞台”だったんだよね? なのに、あれだけ堂々と演れるなんて、スゴいじゃん」
ポンッと勢いよく肩を叩かれ、未優は「ありがとうゴザイマス」と、とまどって答える。
実は、愛美とまともに話したのは、これが初めてである。
未優はそんな愛美の態度に面食らってしまったのだ。
愛美は未優の反応に目をぱちくりさせた。
それから失笑をもらすと、もう一度肩を叩いてきた。
「ちょっとぉ~同い年なんだから、もっとくだけて話そうよぉ。未優って意外と、マジメな子?
最初の挨拶はあんなにトバしてたんだからさ~遠慮することないじゃん? それとも何、誰かになんか言われたりしたの?」
図星をさされ、未優は驚いて愛美を見返した。
そんな未優に愛美は、ふうっ……と大げさに溜息をついてみせた。
「やっぱりねぇー。でも、そんなのいちいち気にしてたら、ここではやってけないよ?
いろんな“種族”が集まってるんだしさぁ、女ばっかりじゃん? 気が合わない人だっているのは当たり前。そーゆー人は、無視ムシ!」
「そ、そういうもの?」
「そーゆーもん。それよりさぁ、未優、それ地毛だよね? カラコンもナシでしょ? ってコトはぁ、『山猫』だよね?」
「うん、そうだよ。……愛美は『虎』、だよね?」
ベンガルトラの血をひく者によく見られるオレンジ色の毛髪に、未優はそう指摘した。
たいていの者は、地毛を染めることはない。
だが、ひとめ見て“種族”が知れることを嫌う者や、他“種族”への憧れをもつ変わった趣味の者が、染髪をしたりカラーコンタクトを入れたりすることもあるのだ。
「そう! 同じネコ科同士、仲良くしよ?」
「あ、うん。仲良くしようね」
久しぶりの同年代の少女との会話に照れくさくなりながらも、未優は嬉しくなって微笑む。
学生時代の友人のほとんどは、皆、結婚し子供を産んでいて、疎遠になってしまったのだ。
だから、同じ“歌姫”の友人ができるのは、喜ばしいことだ。
と、その時、咳払いが聞こえた。
「───盛りあがってるとこ邪魔してゴメンね。でも、ここはトレーニングルームだし、おしゃべりなら談話室でね?
それと『王女』の綾さんが、十六時からここを使うから空けて欲しいって、清史朗さんに言付かって来たんだけど」
すっかり従業員用の制服が板についた薫が、にこやかに告げる。
(慧一もだけど、薫も相当な「猫かぶり」だ……)
「はーい。行こう、未優」
「うん」
未優の手を引いて、愛美はそそくさとトレーニングルームを出て行く。
談話室へ向かいながら、愛美がホッと息をついた。
「……やっぱり薫サマって『王子』ってカンジだよね~」
「は?」
(薫サマ!? ってか、王子って……)
あっけにとられる未優の前で、愛美は夢見るようにうっとりした表情で続けた。
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