上 下
64 / 101
第四章 連鎖舞台

共存関係【1】

しおりを挟む


ホワイトボードの公演スケジュール表に、未優の名前が記入された。

基本スケジュールでは『声優』の“地位”の者が入っている日程だ。

未優は、“連鎖舞台”においての客の要望により、平日に再演することが決まったのである。

(ひとつの“舞台”に立って、それが評価されれば、また次の“舞台”につながるんだ……)

そうして“舞台”を積み重ね、未優が『禁忌』の“地位”にふさわしいということを、周囲に認めてもらうのだ。

うん、と、自らに言い聞かせるようにうなずき、未優が踊りの練習を再開しようとした時、トレーニングルームの扉が開いた。

「あ、未優。良かったら、一緒してもいい?」

オレンジ色の巻髪を肩下まで伸ばした少女が、未優を見て人懐っこく微笑む。
『偶像』の愛美まなみだった。

「日程、見てたの? お互い、たくさんリクエストもらえたみたいで、良かったねぇ。
未優、この間が初“舞台”だったんだよね? なのに、あれだけ堂々とれるなんて、スゴいじゃん」

ポンッと勢いよく肩を叩かれ、未優は「ありがとうゴザイマス」と、とまどって答える。

実は、愛美とまともに話したのは、これが初めてである。
未優はそんな愛美の態度に面食らってしまったのだ。

愛美は未優の反応に目をぱちくりさせた。
それから失笑をもらすと、もう一度肩を叩いてきた。

「ちょっとぉ~同い年タメなんだから、もっとくだけて話そうよぉ。未優って意外と、マジメな子?
最初の挨拶はあんなにトバしてたんだからさ~遠慮することないじゃん? それとも何、誰かになんか言われたりしたの?」

図星をさされ、未優は驚いて愛美を見返した。
そんな未優に愛美は、ふうっ……と大げさに溜息をついてみせた。

「やっぱりねぇー。でも、そんなのいちいち気にしてたら、ここではやってけないよ?
いろんな“種族”が集まってるんだしさぁ、女ばっかりじゃん? 気が合わない人だっているのは当たり前。そーゆー人は、無視ムシ!」

「そ、そういうもの?」

「そーゆーもん。それよりさぁ、未優、それ地毛だよね? カラコンもナシでしょ? ってコトはぁ、『山猫』だよね?」

「うん、そうだよ。……愛美は『虎』、だよね?」

ベンガルトラの血をひく者によく見られるオレンジ色の毛髪に、未優はそう指摘した。

たいていの者は、地毛を染めることはない。

だが、ひとめ見て“種族”が知れることを嫌う者や、他“種族”への憧れをもつ変わった趣味の者が、染髪をしたりカラーコンタクトを入れたりすることもあるのだ。

「そう! 同じネコ科同士、仲良くしよ?」

「あ、うん。仲良くしようね」

久しぶりの同年代の少女との会話に照れくさくなりながらも、未優は嬉しくなって微笑む。

学生時代の友人のほとんどは、皆、結婚し子供を産んでいて、疎遠になってしまったのだ。

だから、同じ“歌姫”の友人ができるのは、喜ばしいことだ。
と、その時、咳払いが聞こえた。

「───盛りあがってるとこ邪魔してゴメンね。でも、ここはトレーニングルームだし、おしゃべりなら談話室でね?
それと『王女』の綾さんが、十六時からここを使うから空けて欲しいって、清史朗さんに言付かって来たんだけど」

すっかり従業員用の制服が板についた薫が、にこやかに告げる。

(慧一もだけど、薫も相当な「猫かぶり」だ……)

「はーい。行こう、未優」

「うん」

未優の手を引いて、愛美はそそくさとトレーニングルームを出て行く。
談話室へ向かいながら、愛美がホッと息をついた。

「……やっぱり薫サマって『王子』ってカンジだよね~」

「は?」

(薫サマ!? ってか、王子って……)

あっけにとられる未優の前で、愛美は夢見るようにうっとりした表情で続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...