59 / 101
第四章 連鎖舞台
成長の軌跡【3】
しおりを挟む
「それに君の歌声は、聴く者が聴けば、正当な評価が下るはずだ。
君に必要だったのは、その評価を下してもらう《場》だったんだからな。君が選ばれるのは、当然の結果だ。
それより本番に向けて、もっと密度の濃い練習をしよう」
留加の思考はすでに、目前に迫った“連鎖舞台”へと移っているようだった。
(今のって、あたしのコト褒めてくれてたのかな……?)
あまりにも淡々と言われて気づきにくかったが、おそらくそうだろう。
未優はふたたび、気持ちが上向きになっていくのを感じた。
「……ね、留加。久々に、外で合わせない?」
突然の提案に留加は面食らったようだが、すぐにうなずいてくれた。
二人して、“第三劇場”の中庭へと足を運ぶ。
陽ざしは秋のそれから冬のそれに変わっており、時折吹く風は、冷たかった。
しかし、防音室で音を積み重ねていく段階は過ぎていたため、開放された空間で少し動きを伴ってみたかった未優としては、ちょうど良かった。
「───始めようか」
留加と試行錯誤した結果、『ラプンツェル』の第二幕にふさわしい楽曲は、メンデルスゾーンの『歌の翼に』だろうということになった。
清らかな旋律のなかに、心のうちにある憧れのようなものの訪れを、期待させる曲だ。
未優は歌った。
通りがかった王子の心を動かす、力のある歌声で───。
(あぁ、やっぱり、気持ちいいな)
留加の奏でるヴァイオリンの音色で、よりいっそう自分の中にある想いが、解き放たれていくのが分かった。
溶け合って、ひとつの音色を生みだす。
響き合う、この感覚が、心地良い。
弾きながら、留加は、目の前で歌い踊る未優を見ていた。
歌声は、以前にも増して自分の心を惹きつけ、久しぶりに間近で見る彼女の踊りは、以前よりもずっと洗練されて美しかった。
(……頑張ったんだな……)
練習している風景を見たわけではない。
だが、見ずとも分かる彼女の努力の跡に、留加は微笑んだ。
そういう彼女のためになら、いくら弾いても惜しくはない。
むしろずっと、弾いていたい───。
君に必要だったのは、その評価を下してもらう《場》だったんだからな。君が選ばれるのは、当然の結果だ。
それより本番に向けて、もっと密度の濃い練習をしよう」
留加の思考はすでに、目前に迫った“連鎖舞台”へと移っているようだった。
(今のって、あたしのコト褒めてくれてたのかな……?)
あまりにも淡々と言われて気づきにくかったが、おそらくそうだろう。
未優はふたたび、気持ちが上向きになっていくのを感じた。
「……ね、留加。久々に、外で合わせない?」
突然の提案に留加は面食らったようだが、すぐにうなずいてくれた。
二人して、“第三劇場”の中庭へと足を運ぶ。
陽ざしは秋のそれから冬のそれに変わっており、時折吹く風は、冷たかった。
しかし、防音室で音を積み重ねていく段階は過ぎていたため、開放された空間で少し動きを伴ってみたかった未優としては、ちょうど良かった。
「───始めようか」
留加と試行錯誤した結果、『ラプンツェル』の第二幕にふさわしい楽曲は、メンデルスゾーンの『歌の翼に』だろうということになった。
清らかな旋律のなかに、心のうちにある憧れのようなものの訪れを、期待させる曲だ。
未優は歌った。
通りがかった王子の心を動かす、力のある歌声で───。
(あぁ、やっぱり、気持ちいいな)
留加の奏でるヴァイオリンの音色で、よりいっそう自分の中にある想いが、解き放たれていくのが分かった。
溶け合って、ひとつの音色を生みだす。
響き合う、この感覚が、心地良い。
弾きながら、留加は、目の前で歌い踊る未優を見ていた。
歌声は、以前にも増して自分の心を惹きつけ、久しぶりに間近で見る彼女の踊りは、以前よりもずっと洗練されて美しかった。
(……頑張ったんだな……)
練習している風景を見たわけではない。
だが、見ずとも分かる彼女の努力の跡に、留加は微笑んだ。
そういう彼女のためになら、いくら弾いても惜しくはない。
むしろずっと、弾いていたい───。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
アリエール
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる