【完結】婚約者も求愛者もお断り!欲しいのは貴方の音色だけ

一茅苑呼

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第四章 連鎖舞台

成長の軌跡【3】

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「それに君の歌声は、聴く者が聴けば、正当な評価が下るはずだ。
君に必要だったのは、その評価を下してもらう《場》だったんだからな。君が選ばれるのは、当然の結果だ。

それより本番に向けて、もっと密度の濃い練習をしよう」

留加の思考はすでに、目前に迫った“連鎖舞台”へと移っているようだった。

(今のって、あたしのコト褒めてくれてたのかな……?)

あまりにも淡々と言われて気づきにくかったが、おそらくそうだろう。

未優はふたたび、気持ちが上向きになっていくのを感じた。

「……ね、留加。久々に、外で合わせない?」

突然の提案に留加は面食らったようだが、すぐにうなずいてくれた。

二人して、“第三劇場”の中庭へと足を運ぶ。

陽ざしは秋のそれから冬のそれに変わっており、時折吹く風は、冷たかった。

しかし、防音室で音を積み重ねていく段階は過ぎていたため、開放された空間で少し動きを伴ってみたかった未優としては、ちょうど良かった。

「───始めようか」

留加と試行錯誤した結果、『ラプンツェル』の第二幕にふさわしい楽曲は、メンデルスゾーンの『歌の翼に』だろうということになった。

清らかな旋律のなかに、心のうちにある憧れのようなものの訪れを、期待させる曲だ。

未優は歌った。
通りがかった王子の心を動かす、力のある歌声で───。

(あぁ、やっぱり、気持ちいいな)

留加の奏でるヴァイオリンの音色で、よりいっそう自分の中にある想いが、解き放たれていくのが分かった。

溶け合って、ひとつの音色を生みだす。
響き合う、この感覚が、心地良い。

弾きながら、留加は、目の前で歌い踊る未優を見ていた。

歌声は、以前にも増して自分の心を惹きつけ、久しぶりに間近で見る彼女の踊りは、以前よりもずっと洗練されて美しかった。

(……頑張ったんだな……)

練習している風景を見たわけではない。

だが、見ずとも分かる彼女の努力の跡に、留加は微笑んだ。
そういう彼女のためになら、いくら弾いても惜しくはない。

むしろずっと、弾いていたい───。



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