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第四章 連鎖舞台
成長の軌跡【1】
しおりを挟む“連鎖舞台”のメンバーを決める試験日。
すべての“歌姫”がトレーニングルームにそろっていた。
「では、事前に申告してもらった希望の演目ごとに、各“地位”、演じてもらいます。
今回『王女』のお二方には、シェリーさんが『灰かぶり』の第三幕を。綾さんが『ラプンツェル』の終幕を演じられることになってます。
皆さんには、それ以外の各幕を演じていただくことになりますが、よろしいですね?」
清史朗が集った“歌姫”を見渡す。異を唱える者はなかった。
(綾さんが『ラプンツェル』側の『王女』かぁ。ちょっと緊張するな……)
未優はちらりと綾の方を見た。
面と向かって「嫌い」と言われたのは初めての経験で、未優はあれ以来、綾と顔を合わせても、あいさつしかしなかった。
そして、綾の方は、そんな未優を完全に無視していた。
───試験は、まず『灰かぶり』の第一幕から行われた。
通常、どんな演目でも第一幕は『踊り子』が選ばれることが多い。
今回も例にもれず、『踊り子』二人と『偶像』一人の希望者となっていた。
続いて、第二幕と終幕も行われ試験は『ラプンツェル』へと移った。
未優の希望した第二幕は、ラプンツェルの歌声に誘われた王子──というくだりが見せ場のためか、『声優』三人が三人共、希望をだしていた。
(やっぱりみんな、うまいなぁ……)
「歌声」を《武器》とする“地位”だけあり、三人共に、それぞれ他の“地位”の“歌姫”とは段違いの歌唱力を誇っていた。
……その三人の演じたあとで、未優が演じるのだ。
(うわ、緊張してきた……!)
身体が畏縮し、思うように呼吸ができなくなる。
未優はあわてて、そんな自分をリラックスさせようと深呼吸した。
と、その時、綾がこちらを見ているのに気がつく。
未優は、そんな綾を静かに見返した。
綾は未優が“歌姫”になったことを、「道楽」だと言った───趣味の延長でしかないと。
(でも、今は違うもの)
留加と合わせることにより、それは確信に変わった。
もう一度、いや、何度でも、あの舞台に立って、“歌姫”としての自分を実感したい。
そのためには、ここにいる他の“歌姫”に、未優の力を認めてもらうしかないのだ。
「───続いて、『禁忌』の未優さん、どうぞ」
清史朗にうながされ、未優は他の“歌姫”の視線を受けながら、トレーニングルームの中央へと進み出た。
†††††
(おやおや。短期間でよくもまぁこれだけ成長できたこと)
人差し指を立て、響子はあごをつまんだ。
未優の踊りの技術力が、面接時より格段に上がっているのが見てとれた。
動きのしなやかさに加え、表現力が磨かれてきている。
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