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第四章 連鎖舞台
歌姫であることの証明【2】
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未優は面食らった。
確かに“種族”に関しては、髪と瞳の色でおおよそ見当がつくはずだ。
現に、目の前の綾の銀髪と深紅の瞳は『狐族』によく見られる特徴だと、誰もが知っている。
そして、未優の栗色の髪と緑色の眼が『山猫族』に見られる特徴だということも。
だが、“純血種”か“混血種”かは、“ピアス”の色を見なければ、判断はつかないはずなのだ。
瞬間、乱暴につかまれたあごが放りだされる。綾は、腕を組んで未優を見下ろしてきた。
「あきれた。本当に解らないみたいね。
しぐさや言葉遣いは庶民でも、その心根が、鈍感な育ちの良いお嬢様ってこと? ……笑えるわね」
吐き捨てるように言い切って、綾は険しい表情のまま未優を見据えた。
「……客をとらずに済む“地位”っていうのは、『女王』と『禁忌』だけ。
いいこと? どちらも共通して言えるのは、それに見合うだけの実力ってものが求められるのよ。
客はとらない“舞台”には立てない……そんなの、ただの穀潰しじゃない。
とっとと家に帰ったら? ここでは厄介者でも、あなたの実家では、大事な跡取り娘なんでしょ?
『山猫』のお嬢様ってだけで、“歌姫”の“舞台”に、いくら積んだのよ? 道楽なら、他でやってほしいわ。
私たちはね、文字通り、身体を張って“歌姫”をやってるのよ!
趣味が高じて“歌姫”になったあなたみたいな人がいること自体、目障りなのよ!」
どんっ、と、未優の肩を突き飛ばし、綾はトレーニングルームを去って行った。
未優は、その場にくずれ落ちた。……力が、入らない。
突き飛ばされた肩が熱く、鈍い痛みを放っている。
そのくせ、身体全体はなんだか薄ら寒くて……未優は自分で自分を抱きしめた。
ふいに、泣きだしそうな自分に気づいて、あわてて自らの両頬を叩いた。……泣いたら、負けだ。
綾の言うことは正論だ。
未優は、ここの“歌姫”達が当り前に受け入れている売春制度の枠から外れ、毎日、自分の好きな歌と踊りしか行っていない。
しかも、一度も“舞台”に立っていないのだ。
“第三劇場”に何の利益をもたらさず、衣・食・住を満たしてもらっている。
自分の家なら、それもいいだろう。だがここは、それが許される場ではない。
(……そっか。だから、皆に実力を示せって言われたんだ)
涼子の言葉を思い出す。
『禁忌』の“地位”にふさわしいと、皆に納得させるだけの実力を。
可能かどうかなどと言っている場合ではない。
“歌姫”としてやっていくのなら《示さなければならない》のだ。
未優は立ち上がった。
確かに始まりは「趣味」だったかもしれない。けれども、今は───。
(これが、あたしの「誇り」なんだ)
前を見据える。
口で何を言っても無駄だ。
“歌姫”としての証明は、自らの歌と踊りと語りで表現しなければならないのだから……。
とんっ……と。未優は軽く跳躍した。
羽根でも生えているかのように未優は高く遠くへ飛べる。
滞空時間の長い飛翔は特技と言っても良いが、それだけでは、ただ跳躍力を誇示するだけで終わってしまう。
(さっきの綾さんの動き、キレイだった)
おそらくは、舞いの型の一つだろうと思われるが。
(水の流れ、を、表現しているのかな……)
頭に思い浮かべながら、未優はそれを、飛翔時の動きに取り入れようと考える。
繰り返し、思い描いては跳躍しまた繰り返す。
自分のものとなるまで、幾度も、幾度も。
確かに“種族”に関しては、髪と瞳の色でおおよそ見当がつくはずだ。
現に、目の前の綾の銀髪と深紅の瞳は『狐族』によく見られる特徴だと、誰もが知っている。
そして、未優の栗色の髪と緑色の眼が『山猫族』に見られる特徴だということも。
だが、“純血種”か“混血種”かは、“ピアス”の色を見なければ、判断はつかないはずなのだ。
瞬間、乱暴につかまれたあごが放りだされる。綾は、腕を組んで未優を見下ろしてきた。
「あきれた。本当に解らないみたいね。
しぐさや言葉遣いは庶民でも、その心根が、鈍感な育ちの良いお嬢様ってこと? ……笑えるわね」
吐き捨てるように言い切って、綾は険しい表情のまま未優を見据えた。
「……客をとらずに済む“地位”っていうのは、『女王』と『禁忌』だけ。
いいこと? どちらも共通して言えるのは、それに見合うだけの実力ってものが求められるのよ。
客はとらない“舞台”には立てない……そんなの、ただの穀潰しじゃない。
とっとと家に帰ったら? ここでは厄介者でも、あなたの実家では、大事な跡取り娘なんでしょ?
『山猫』のお嬢様ってだけで、“歌姫”の“舞台”に、いくら積んだのよ? 道楽なら、他でやってほしいわ。
私たちはね、文字通り、身体を張って“歌姫”をやってるのよ!
趣味が高じて“歌姫”になったあなたみたいな人がいること自体、目障りなのよ!」
どんっ、と、未優の肩を突き飛ばし、綾はトレーニングルームを去って行った。
未優は、その場にくずれ落ちた。……力が、入らない。
突き飛ばされた肩が熱く、鈍い痛みを放っている。
そのくせ、身体全体はなんだか薄ら寒くて……未優は自分で自分を抱きしめた。
ふいに、泣きだしそうな自分に気づいて、あわてて自らの両頬を叩いた。……泣いたら、負けだ。
綾の言うことは正論だ。
未優は、ここの“歌姫”達が当り前に受け入れている売春制度の枠から外れ、毎日、自分の好きな歌と踊りしか行っていない。
しかも、一度も“舞台”に立っていないのだ。
“第三劇場”に何の利益をもたらさず、衣・食・住を満たしてもらっている。
自分の家なら、それもいいだろう。だがここは、それが許される場ではない。
(……そっか。だから、皆に実力を示せって言われたんだ)
涼子の言葉を思い出す。
『禁忌』の“地位”にふさわしいと、皆に納得させるだけの実力を。
可能かどうかなどと言っている場合ではない。
“歌姫”としてやっていくのなら《示さなければならない》のだ。
未優は立ち上がった。
確かに始まりは「趣味」だったかもしれない。けれども、今は───。
(これが、あたしの「誇り」なんだ)
前を見据える。
口で何を言っても無駄だ。
“歌姫”としての証明は、自らの歌と踊りと語りで表現しなければならないのだから……。
とんっ……と。未優は軽く跳躍した。
羽根でも生えているかのように未優は高く遠くへ飛べる。
滞空時間の長い飛翔は特技と言っても良いが、それだけでは、ただ跳躍力を誇示するだけで終わってしまう。
(さっきの綾さんの動き、キレイだった)
おそらくは、舞いの型の一つだろうと思われるが。
(水の流れ、を、表現しているのかな……)
頭に思い浮かべながら、未優はそれを、飛翔時の動きに取り入れようと考える。
繰り返し、思い描いては跳躍しまた繰り返す。
自分のものとなるまで、幾度も、幾度も。
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