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第三章 王女と奏者
新人歌姫と新人世話係【1】
しおりを挟む接待係は主にV.I.P.ルームの客に当日のプログラムを説明し、そして、客が気に入った“歌姫”に引き合わせることが役目だった。
得意客から優先順位をつけ、客が特定の“歌姫”に集中した際、うまく振り分ける手腕が求められる。
そのためには客の好みを熟知しまた、それに見合う“歌姫”を売りこまなくてはならない。
一夜限りで終わらせないためにその日のプログラムに登場しなかった“歌姫”についても、興味をもたせておく必要もあった。
(やはり、政財界のトップクラスの人間ともなると、体面を気にするものだな)
“舞台”によって客層も違うらしいが、“第三劇場”は、大物政治家───『獅子族』に多い───や、一流企業の取締役など───『狼族』に多い───が、顧客を占めていた。
響子の方針らしく、身元のはっきりしない者は“舞台”の観覧は許しても“歌姫”個人と引き合わせることはさせなかった。
主流客である彼ら政財界の人間は、たいてい“歌姫”の“舞台”を目的としてやって来る。
“歌姫”との情事は、副産物に過ぎないとの構えを見せている。……あくまで表向きだが。
しかし、例えそれが彼らの建前だとしても、そこにつけこむ隙があるはずだと慧一はにらんでいた。
───『禁忌』という特殊な“地位”の未優を売りこむには。
(まったく……どこまでいっても面倒な女だな……)
心中でつぶやく言葉とは裏腹に、慧一の顔には挑戦的な笑みが浮かんでいた。
†††††
トレーニングルームに掛けられたホワイトボードを見上げ、未優はあることに気づき、穏やかではなくなった。
そこには、基本的な一週間の公演スケジュール表と、実際に行われる公演予定が書きこまれている。
(……これ見ると、あたしの出番なくない?)
もちろん、未優は新人の“歌姫”で、いきなり“舞台”に立てるなどとは思っていない。
だが、『王女』二人を中心に組まれた公演日程は、一番下位の“地位”である『踊り子』からして、一ヶ月に一度ないしは二度“舞台”に立てれば良い方というような日程なのだ。
(そりゃ、あたしの“歌姫”としての経験は皆無だけど、でも“舞台”に立てなきゃ、その経験さえ積めないよ……!)
趣味で“歌姫”をやるのではない。
それによって収入を得ようと考えたら“舞台”にあがれなければ、当然、入ってくるものも、こない。
未優は支配人室の扉を叩いた。
「おや。やっと気づいたようだね、未優」
中に入ると、例によって大机の前に腰かけた響子と、その秘書の涼子、そして“歌姫”世話係の清史朗と、なぜか薫がいた。
薫は、黒のフロントフリルのシャツに、襟もとにピンブローチ、臙脂色のホルターネックのベストを着ている。
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