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第三章 王女と奏者
王女の願い【2】
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未優はシェリーの隣に座りこみ、彼女の横顔を盗み見た。
綺麗な顔立ちというだけなら、こんなに自分が気になることも、ないだろう。
きっと───。
「……私の耳が、気になるの?」
「あ、えっと……はい。
あの、失礼かもしれませんが、可愛いなって、思って……」
その言葉が、シェリーの記憶のなかの少年の声と、重なる。
『お姉さんの耳、かわいいと思って……』
「ああああのっ、あたし、メチャ失礼でしたかっ!? 気を悪くされたら、すみませんッ!」
押し黙ってしまったシェリーに、未優はあわてて謝った。
失敗した。
思っていることをすぐに口にだすのは、お前の悪い癖だと慧一に言われていたのを思いだす。
しかし、未優の後悔に反して、シェリーは花が開くようにふわっと笑ってみせた。
「いいえ。可愛いって言ってもらえて嬉しいわ。私もこの耳、自分のチャームポイントだと思っているから」
(うわーっ……)
未優は思わず、感嘆の息をついた。
シェリーの微笑みは自分に対する自信で満ちあふれ、彼女を輝かせて見せたからだ。
「あのっ、あたし、シェリーさんのこと、好きですっ」
突然、未優の口から、そんな言葉が飛びだす。
シェリーは目をしばたたかせたが、すぐに噴きだした。
「……ありがとう、未優。私も、あなたみたいに素直な子、好きよ」
「えっ……」
未優は顔を真っ赤にした。
嬉しさと気恥ずかしさがない交ぜになって、何を言っていいのか解らなくなる。
そんな未優に、シェリーはふふっと笑った。
思いついたように口を開く。
「……そうだわ。私、あなたに訊きたいことがあったの。あなたには、専属の“奏者”がいるけど……彼とは、長いの?」
「いいえ。まだ、知り合ってから間もなくて……」
言いながら未優は、新人である自分に、すでに“奏者”がいることを、シェリーが快く思っていないのかもしれないと気づく。
面接時の響子の口振りに、薫に訊いたところによれば、通常は“劇場”所属の“奏者”から、自分に合った者を選ぶという形をとるらしい。
だから、今回のように“奏者”連れで“劇場”に入るのは、異例中の異例のはずだ。
「そう……。じゃあ、彼の過去については、知らないことの方が多いのかしら?」
しかしシェリーの口調からは、未優を責めるようなところは窺えなかった。
わずかな違和感を覚えながら、未優はうなずいてみせる。
「あまり……知らないですね。あの、それが何か?」
気になって問い返すと、シェリーは優しく目を細めた。
「“奏者”との相互理解は大切よ。余計なお世話かもしれないけど、なるべく意識的に、彼とコミュニケーションをとった方がいいわ」
「あっ……はい!
そうですよね? 心がけます」
改めて気づかされ、未優はシェリーに同意する。そういえば、留加と音楽以外のことを話した記憶が、あまりない。
(うん、留加といろいろ話してみよう)
そんな想いにとらわれている未優を、シェリーは穏やかな眼差しで見つめていた……。
綺麗な顔立ちというだけなら、こんなに自分が気になることも、ないだろう。
きっと───。
「……私の耳が、気になるの?」
「あ、えっと……はい。
あの、失礼かもしれませんが、可愛いなって、思って……」
その言葉が、シェリーの記憶のなかの少年の声と、重なる。
『お姉さんの耳、かわいいと思って……』
「ああああのっ、あたし、メチャ失礼でしたかっ!? 気を悪くされたら、すみませんッ!」
押し黙ってしまったシェリーに、未優はあわてて謝った。
失敗した。
思っていることをすぐに口にだすのは、お前の悪い癖だと慧一に言われていたのを思いだす。
しかし、未優の後悔に反して、シェリーは花が開くようにふわっと笑ってみせた。
「いいえ。可愛いって言ってもらえて嬉しいわ。私もこの耳、自分のチャームポイントだと思っているから」
(うわーっ……)
未優は思わず、感嘆の息をついた。
シェリーの微笑みは自分に対する自信で満ちあふれ、彼女を輝かせて見せたからだ。
「あのっ、あたし、シェリーさんのこと、好きですっ」
突然、未優の口から、そんな言葉が飛びだす。
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「えっ……」
未優は顔を真っ赤にした。
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そんな未優に、シェリーはふふっと笑った。
思いついたように口を開く。
「……そうだわ。私、あなたに訊きたいことがあったの。あなたには、専属の“奏者”がいるけど……彼とは、長いの?」
「いいえ。まだ、知り合ってから間もなくて……」
言いながら未優は、新人である自分に、すでに“奏者”がいることを、シェリーが快く思っていないのかもしれないと気づく。
面接時の響子の口振りに、薫に訊いたところによれば、通常は“劇場”所属の“奏者”から、自分に合った者を選ぶという形をとるらしい。
だから、今回のように“奏者”連れで“劇場”に入るのは、異例中の異例のはずだ。
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「あっ……はい!
そうですよね? 心がけます」
改めて気づかされ、未優はシェリーに同意する。そういえば、留加と音楽以外のことを話した記憶が、あまりない。
(うん、留加といろいろ話してみよう)
そんな想いにとらわれている未優を、シェリーは穏やかな眼差しで見つめていた……。
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