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第三章 王女と奏者
初顔合わせ【2】
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涼子に連れられて、未優は留加と共に食堂のある別館へと足を運んだ。
食堂と厨房の他に、医務室・談話室・トレーニングルーム・洗濯室などもある。
そこは、未優の部屋のある従業員寮と“歌姫寮”の中間に位置していた。
“歌姫”の未優が“歌姫寮”に住まわないのは、客を寄せることも兼ねているため『禁忌』の部屋は従業員寮にあるのだ。
「みんな、そろったね? そんじゃ、新入りのナイチンゲールを紹介するよ。
『禁忌』の未優だ」
テーブルについた“歌姫”達を確認し、響子が声をあげた。
瞬間、さざ波のようにざわついていた空間が、しんと静まり返る。
顔を見合せる者、遠慮がちに未優を見る者、まるで無関心な者……と。
反応は様々だったが、沈黙にあっても興味がないわけではないようであった。
未優は心持ち緊張していたが、なんとか笑顔をつくり、思いきって口を開く。
「未優、17歳です! 先輩方に負けないよう頑張りますので、どうぞ、いろいろ教えてやってください! よろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げたが、気まずい空気が広がるだけで、未優はそのままの姿勢で固まってしまう。
(……空気、重いんですけど……)
それでも、いつまでもそうしているわけにもいかず、おそるおそる未優は顔を上げた。
すると、パチパチと誰かが手を叩く音が聞こえた。
目をやれば、整った目鼻立ちの褐色の肌をした白金髪の女性が、未優を見て微笑んでいた。
つられたような拍手が、それぞれのテーブルに広がっていく。
拍手がやむと、その女性が立ち上がった。
上半身を傾けた際に、白金の髪の間から『犬』の耳がのぞき見えた。
“異種族間子”という単語が、未優の頭をよぎる。
「元気があっていいわね、未優。
私は『王女』のシェリー。25歳よ。こちらこそ、よろしくね」
やわらかくあたたかい微笑みに、未優はうっとりとして彼女を見返した。
(うわ~……キレイなお姉さん、ってカンジ。それに、あの耳が超かわいー)
感動して見とれている未優の耳に、ガタンと乱暴に席を立つ音が届いた。
「───同じく、『王女』の綾。21歳。……よろしく」
銀髪に深紅の瞳は『狐族』によく見られる特徴だ。
気のせいか敵意を感じる眼差しに、未優は軽く頭を下げて答える。
(なんだろう、このカンジ……やだな)
その後、『声優・偶像・踊り子』と、それぞれが簡単な自己紹介をしてくれ、そうして初顔合わせは終わった。
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