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第三章 王女と奏者

ふたりの王女と奏者の過去【2】

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集めた情報によると。

留加は『犬族』の“支配領域”の一つ、“第五東北領域”にあるブラックヴィレッジの出身で、七歳の時にはすでに同“領域”内のコンクールで優勝できるほどのヴァイオリニストだったらしい。

父親を五歳で亡くし、母親とも九歳で死別。
その後は、親類に預けられたり施設に入ったりと、北から南へと居住地を転々と移す。

そして、一ヶ月ほど前からマロンタウンのある“第二中央領域”に住むようになったという。

義務教育を終えたのちは、ヴァイオリニストとして生計を立てており、実際、何度か演奏会も開き、評価も上々だったようだ。

しかし、本人は気まぐれに依頼を受けては弾く程度の意欲しかなく、特定の楽団に所属することも、定期的に演奏会を行うこともなかったとのことだった。

(その経歴の中で、唯一、留加にとって両親以外では、特別であったに違いない人物)

留加は《彼女》の所在を知らなかったようだが《彼女》は今、この“第三劇場”で“歌姫”になっているという。

───舞台上では、銀色の髪の少女が『赤ずきん』を演じていた。

歌唱力はそれほどでもないが、はっきりとした語り口調と洗練された物腰が自信に満ち、観る者を圧倒する。

(なるほど。これが『王女』の実力というわけか……)

腕を組み、慧一は冷静に分析する。
未優がこのレベルに達するまでには、あと二三年といったところだろうか。

(ギリギリだな……)

彼女が猫山の当主の座に就かなければならない、二十歳ハタチまで。

未優が“歌姫”になることを泰造たいぞうが許したのも、すべて慧一が提示した条件───娼婦にはならないこと、自分が未優の側についていること。
そして、“歌姫”でいるのは満20歳までの期間限定であること───の三つによって、果たせたのだから。

その時、隣で“舞台”を見ていた留加が、息をのんだのが分かった。

(彼女、か……)

銀髪の少女が去ったのち現れた“歌姫”は、白金の髪を腰下まで伸ばしていた。

遠目から見てもわかる、整った目鼻立ち。
女性らしい丸みを帯びた身体の線がなまめかしく、褐色の肌がエキゾチックで、さらに妖艶な印象を与える。

(二十四五といったところか。おそらく、ここで『女王』の座に近いのは、彼女だろう)

ヴィオラの音色と共に語りだした美しき“歌姫”は、癖のない白金の髪を宙に散らし、踊る。
歌声は情熱的で、時折ハスキーなそれに変わった。感情のこめ方が抜群にうまく、聴く者の心を揺さ振る響きをもっている。

『踊って、踊って……死ぬまで踊るわ。誰も私を止められない』

狂気の様を、文字通り踊り続けることで表す。息をつく間もないほどの激しさ。

竜巻のようにくるくると早い回転を続けていても、軸足はブレない。
ヴィオラの奏でる旋律が終幕に近づくにつれ、回転のスピードがあがっていく。

そして、『赤い靴』は終わりを迎えた───。



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