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第三章 王女と奏者
ふたりの王女と奏者の過去【1】
しおりを挟む一時間の施術後、未優は勝から手鏡を渡された。
今まであった金色の三日月型の“ピアス”に代わり、銀色の音符型の“ピアス”が耳たぶに付いている。
これで本当に、未優は“歌姫”としての道を歩きだすのだ。
「麻酔が切れるまで、二三時間はかかるが、そのあとは多少痛みもあるじゃろうし、今日はゆっくり部屋で休むと良いぞ。
涼子嬢も言っとったが、嬢ちゃんの正式な顔見せは、明日するそうじゃからな」
「はい。ありがとうございました」
「なに、礼には及ばんて。
それより、身体のこと、特に“変身”に関することは、早目に相談してくるんじゃぞ。“ピアス”を換えると、身体に変調をきたす者も多いからの」
「分かりました、気をつけます」
勝の忠告に、未優は自分の“変身日”を思い返す。
先月は月初めだったから、いつも通りであれば、二週間後には訪れるはずだ。
そこへ、ノックの音が響いた。
「失礼します。
……未優、終わったようね。これから、あなたの部屋に案内するわ。ついてきて」
涼子にうながされ、未優は医務室をあとにする。
「未優。部屋で落ち着いてからでいいから、これに目を通しておいてね」
歩きながら涼子が、二枚のB5サイズの用紙を手渡してきた。
「契約書の内容を要約した『“歌姫”規約』と、他の従業員にも渡している『“第三劇場”規則』よ。
解りやすく書いたつもりだけどもし、解らないところがあったら遠慮なく訊いてちょうだいね?」
「はい、ありがとうございます!」
契約時に慧一に任せきりだったのが気になっていたので、未優はホッとしながら微笑んだ。
†††††
「───猫山慧一と申します。
不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんのセールスポイントをしっかり覚えて、接待係を務めさせていただきます。
どうぞ、ご指導のほど、よろしくお願いいたします」
にっこり笑って、頭を下げる。
未優が見たら「誰?」と突っ込みそうな、さわやかな笑顔だった。
もちろん留加も、内心ぎょっとしてそんな慧一の姿を見ていた。
13名いるという“歌姫”のうち、トレーニングルームにいたのは『王女』ふたりを除く11名。
年の頃は、下は十二三歳、上は20歳前後といった感じだ。
その中に、留加の知った顔はなかった。
(……『王女』なのか……)
心の準備はしてきたつもりだ。ここに【彼女】がいることを、慧一に教えられた日から。
「では、慧一様───失礼、慧一さん、留加様。
舞台の方へ、参りましょうか。丁度『王女』達が、リハーサルを行ってる頃ですから」
清史朗の言葉に、留加は自分を落ち着かせるように息をついた。
慧一は横目でそんな留加を見ていたが、何も言わなかった。
留加を“奏者”に未優が選ぶことを予感した、あの日。
慧一は、留加に関する情報を、あらゆる手段を使って手に入れた。
───未優のため、ひいては一族のために必要だったからだ。
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