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第三章 王女と奏者
歌姫の気概【2】
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知的美女らしからぬ発言に驚いていると、それに気づいたらしい涼子が、取り繕うように微笑んでみせた。
「未優。あなた、今までピアスの交換は、したことがあって?」
「いえ、生まれた時から、このままです」
『種族識別』のための“ピアス”は、生まれてすぐに付けられたのちは、基本的に生涯取り外すことはない。
特殊な金属加工が施してあり、無理に外そうとすると、命に関わるような信号をだす仕組みとなっているからだ。
しかし、ごくまれに機能の低下や不良が起こり識別が不可能となるため、交換を余儀なくされる場合がある。
「そう。じゃ、今回が初めてとなるのね。
大丈夫よ。ウチの専属医、性格は難ありだけど、腕は良いから」
「はい……」
曖昧にうなずき返す。
“歌姫”になると、それまでの身分証明と変わるため、当然“ピアス”の交換が行われるらしい。
いま着けている“ピアス”を外すことは『山猫』の“純血種”であることはもちろん、今までの経歴やその他の個人情報も【捨てる】ことになるのだ。それは、実質、“歌姫”として生まれ変わることを意味する。
(なんだか、落ち着かないなぁ……)
無意識に“ピアス”に触れる。
十七年と数ヶ月、身につけてきた三日月型の金色の“ピアス”を外し、“歌姫”の証である音符型の銀色の“ピアス”を付けるのだ。
「最初に言っとくけど、あんたが『山猫』の“純血種”だってことは、リョーコとシロー、それにシシドーのじいさん以外には伏せておくからね。
ここ何十年、“純血種”の“歌姫”が居なかっただけに【“純血種”の“歌姫”は存在しえない】ってのが、通念になっちまってるんだ。
ましてや、あんたは“希少種”であるイリオモテの娘だからねぇ。
手続き上は問題ない“純血種”の雇用も、対外的にはいろいろ問題があるのさ。
ウチのナイチンゲール達に、いらん影響与えんとも限らないしね」
契約時の響子の口調から、“純血種”が“歌姫”になることへの反発がうかがえ、未優は気持ちを新たにした。
(あたしが思っていた以上の覚悟が、必要なのかもしれない───)
と、その時、ガチャリと支配人室の扉が開いた。
「いやいや、遅くなってすまんねぇ。歳をとると、どうも足腰の調子が思うようにならんでなぁ。
……おぉ、そこの嬢ちゃんが、新人のナイチンゲールじゃな」
白髪に長いあごひげ、背骨の曲がった老人が、片足を引きずって現れた。
茶色の瞳で未優をとらえ、歩み寄ってくる。耳には、星型の銀色の“ピアス”があった。
「猫山未優です。よろしくお願いします」
「ほう……話には聞いておったがイリオモテのお姫さんらしいの。
どれ」
立ち上がって挨拶する未優を、あごひげをしごきながら見ていた手が、上がる。
「っ!!」
ペタペタと、その手が未優の胸を確かめるように、さわっていく。場にいた全員が、氷ついたように動きを止める。
未優はパニックを起こした。
(ななな、何っ、これ、ナニッ!? あたし今、何されてんのっ……!?)
「未優。あなた、今までピアスの交換は、したことがあって?」
「いえ、生まれた時から、このままです」
『種族識別』のための“ピアス”は、生まれてすぐに付けられたのちは、基本的に生涯取り外すことはない。
特殊な金属加工が施してあり、無理に外そうとすると、命に関わるような信号をだす仕組みとなっているからだ。
しかし、ごくまれに機能の低下や不良が起こり識別が不可能となるため、交換を余儀なくされる場合がある。
「そう。じゃ、今回が初めてとなるのね。
大丈夫よ。ウチの専属医、性格は難ありだけど、腕は良いから」
「はい……」
曖昧にうなずき返す。
“歌姫”になると、それまでの身分証明と変わるため、当然“ピアス”の交換が行われるらしい。
いま着けている“ピアス”を外すことは『山猫』の“純血種”であることはもちろん、今までの経歴やその他の個人情報も【捨てる】ことになるのだ。それは、実質、“歌姫”として生まれ変わることを意味する。
(なんだか、落ち着かないなぁ……)
無意識に“ピアス”に触れる。
十七年と数ヶ月、身につけてきた三日月型の金色の“ピアス”を外し、“歌姫”の証である音符型の銀色の“ピアス”を付けるのだ。
「最初に言っとくけど、あんたが『山猫』の“純血種”だってことは、リョーコとシロー、それにシシドーのじいさん以外には伏せておくからね。
ここ何十年、“純血種”の“歌姫”が居なかっただけに【“純血種”の“歌姫”は存在しえない】ってのが、通念になっちまってるんだ。
ましてや、あんたは“希少種”であるイリオモテの娘だからねぇ。
手続き上は問題ない“純血種”の雇用も、対外的にはいろいろ問題があるのさ。
ウチのナイチンゲール達に、いらん影響与えんとも限らないしね」
契約時の響子の口調から、“純血種”が“歌姫”になることへの反発がうかがえ、未優は気持ちを新たにした。
(あたしが思っていた以上の覚悟が、必要なのかもしれない───)
と、その時、ガチャリと支配人室の扉が開いた。
「いやいや、遅くなってすまんねぇ。歳をとると、どうも足腰の調子が思うようにならんでなぁ。
……おぉ、そこの嬢ちゃんが、新人のナイチンゲールじゃな」
白髪に長いあごひげ、背骨の曲がった老人が、片足を引きずって現れた。
茶色の瞳で未優をとらえ、歩み寄ってくる。耳には、星型の銀色の“ピアス”があった。
「猫山未優です。よろしくお願いします」
「ほう……話には聞いておったがイリオモテのお姫さんらしいの。
どれ」
立ち上がって挨拶する未優を、あごひげをしごきながら見ていた手が、上がる。
「っ!!」
ペタペタと、その手が未優の胸を確かめるように、さわっていく。場にいた全員が、氷ついたように動きを止める。
未優はパニックを起こした。
(ななな、何っ、これ、ナニッ!? あたし今、何されてんのっ……!?)
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