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第二章 禁忌の称号

現支配人は、元『女王』【2】

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†††††


「“ピアス”を見せてください」

丁寧語であっても言い方がぞんざいで、未優はムッとしながら、頬にかかった髪を耳の後ろに流す。

関係者入口に立った警備員は、一瞬いぶかしげに未優を見たが、すぐに“ピアス”の照合をセンサーにかけた。
前方の四角い枠を指差す。

「じゃ、あれをくぐってください。問題なければ、中に入れますから」

ボディーチェックのそれをくぐり抜け、同様のチェックを受けている二人を待つ。

未優は、後方に建った本館を見上げた。

(えぇと、最初に舞台で“歌姫”としての実技試験で、それから口頭試問。最後に身体検査……って、なんか規定とかあるのかな?)

「あの、さ、慧一」

入口に向かいながら未優は小声で慧一に話しかける。

「なんだ」

「あの……“歌姫”って、胸が大きくないとダメとかってこと、あるのかな?
その、あんたのつかんだ情報で、そういうの、分かんない?」

「──Dカップ未満お断り」

「えっ!?」

「……なんて規定があってくれたら、お前に即、ムダだ諦めろと言えたんだがな。残念ながら、そんな規定はない」

「ちょっと……おどかさないでよ……」

未優は、Aカップしかない胸を撫で下ろした。
……十七でこれでは、この先もサイズが上がることはないだろうと悲しい気分になりながら。

そんな未優を慧一はじっと見つめていた。

未優にとっての“歌姫”への障害が、彼女の気にしている「身体検査」に他ならないことを、知っていたからである──。


†††††


ロビーに入ったところで背の高い青年──慧一の身長が178cmだから、優に180cmは越えるだろう──が、未優達に歩み寄ってきた。

「おはようございます。
13時から面接予定の猫山未優さんですね。
私は、狼口おおかみぐち清史朗せいしろうと申します。
こちらで“歌姫”の……当“劇場”では、ナイチンゲールと呼んでおりますが、世話係をしている者です。
本日は、どうぞよろしくお願いしますね」

穏やかな笑みを浮かべ、未優に軽く頭を下げる。
癖のある褐色の髪で“ピアス”は見えないが、『狼族』には違いないだろう。

横から慧一が未優の腕をひき、耳元で「ほれるなよ」とクギを刺す。未優は目を泳がせた。

(……ちょっとイイかも! と思ったのが、バレてる……)

「あ、はい! 猫山未優です。
こちらこそ、よろしくお願いします!」

勢いよく頭を下げると、清史朗はくすっと笑って、奥の方の通路を片手で示してみせた。

「では、あちらへ。ご案内致しますので。
付き添いの慧一様は、客席でお待ちいただくのがよろしいかと。こちらの正面の扉からお入りください。
それから、“奏者”の留加様は未優さんと同様、まずは控え室へご案内致します」

慧一に一礼して、清史朗が歩きだす。

ちらりと慧一を見やると、行ってこいと顎をしゃくられた。
未優はうなずいて、清史朗と留加のあとに続いた。

『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた扉を抜けると、右側がクリーム色の壁、左側には幾つかの扉が等間隔にあった。

歩きながら清史朗が言った。

「未優さんは、ご自分の衣装をお持ちですか?」

「はい、持ってきました」

「留加様も?」

こくりと、留加がうなずく。

「お二人にはこちらの控え室で着替えていただきますね。手前が留加様、奥を未優さんがお使いになってください。

私はいったんこちらを失礼して支配人に未優さんが来たことを伝えて参りますね。
五分ほどで戻りますので、お二人のお支度が済み次第、舞台袖までご案内致します。

それでは、のちほど」

きっちりとした礼をとると、清史朗は、通路をさらに奥まで進み右に折れた通路へと姿を消した。
なにげなくその姿を見送っていた未優に、留加が声をかける。

「君は女性だし、準備に時間がかかるんじゃないのか? 早く支度にとりかかった方がいい」

「わっ……そうだよね! ありがと、留加。じゃ、また後でね!」

示された扉をあわてて開けながら、未優は留加に片手を上げた。


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