13 / 101
第二章 禁忌の称号
現支配人は、元『女王』【2】
しおりを挟む†††††
「“ピアス”を見せてください」
丁寧語であっても言い方がぞんざいで、未優はムッとしながら、頬にかかった髪を耳の後ろに流す。
関係者入口に立った警備員は、一瞬いぶかしげに未優を見たが、すぐに“ピアス”の照合をセンサーにかけた。
前方の四角い枠を指差す。
「じゃ、あれをくぐってください。問題なければ、中に入れますから」
ボディーチェックのそれをくぐり抜け、同様のチェックを受けている二人を待つ。
未優は、後方に建った本館を見上げた。
(えぇと、最初に舞台で“歌姫”としての実技試験で、それから口頭試問。最後に身体検査……って、なんか規定とかあるのかな?)
「あの、さ、慧一」
入口に向かいながら未優は小声で慧一に話しかける。
「なんだ」
「あの……“歌姫”って、胸が大きくないとダメとかってこと、あるのかな?
その、あんたのつかんだ情報で、そういうの、分かんない?」
「──Dカップ未満お断り」
「えっ!?」
「……なんて規定があってくれたら、お前に即、ムダだ諦めろと言えたんだがな。残念ながら、そんな規定はない」
「ちょっと……おどかさないでよ……」
未優は、Aカップしかない胸を撫で下ろした。
……十七でこれでは、この先もサイズが上がることはないだろうと悲しい気分になりながら。
そんな未優を慧一はじっと見つめていた。
未優にとっての“歌姫”への障害が、彼女の気にしている「身体検査」に他ならないことを、知っていたからである──。
†††††
ロビーに入ったところで背の高い青年──慧一の身長が178cmだから、優に180cmは越えるだろう──が、未優達に歩み寄ってきた。
「おはようございます。
13時から面接予定の猫山未優さんですね。
私は、狼口清史朗と申します。
こちらで“歌姫”の……当“劇場”では、ナイチンゲールと呼んでおりますが、世話係をしている者です。
本日は、どうぞよろしくお願いしますね」
穏やかな笑みを浮かべ、未優に軽く頭を下げる。
癖のある褐色の髪で“ピアス”は見えないが、『狼族』には違いないだろう。
横から慧一が未優の腕をひき、耳元で「ほれるなよ」とクギを刺す。未優は目を泳がせた。
(……ちょっとイイかも! と思ったのが、バレてる……)
「あ、はい! 猫山未優です。
こちらこそ、よろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げると、清史朗はくすっと笑って、奥の方の通路を片手で示してみせた。
「では、あちらへ。ご案内致しますので。
付き添いの慧一様は、客席でお待ちいただくのがよろしいかと。こちらの正面の扉からお入りください。
それから、“奏者”の留加様は未優さんと同様、まずは控え室へご案内致します」
慧一に一礼して、清史朗が歩きだす。
ちらりと慧一を見やると、行ってこいと顎をしゃくられた。
未優はうなずいて、清史朗と留加のあとに続いた。
『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた扉を抜けると、右側がクリーム色の壁、左側には幾つかの扉が等間隔にあった。
歩きながら清史朗が言った。
「未優さんは、ご自分の衣装をお持ちですか?」
「はい、持ってきました」
「留加様も?」
こくりと、留加がうなずく。
「お二人にはこちらの控え室で着替えていただきますね。手前が留加様、奥を未優さんがお使いになってください。
私はいったんこちらを失礼して支配人に未優さんが来たことを伝えて参りますね。
五分ほどで戻りますので、お二人のお支度が済み次第、舞台袖までご案内致します。
それでは、のちほど」
きっちりとした礼をとると、清史朗は、通路をさらに奥まで進み右に折れた通路へと姿を消した。
なにげなくその姿を見送っていた未優に、留加が声をかける。
「君は女性だし、準備に時間がかかるんじゃないのか? 早く支度にとりかかった方がいい」
「わっ……そうだよね! ありがと、留加。じゃ、また後でね!」
示された扉をあわてて開けながら、未優は留加に片手を上げた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】【R18】この国で一番美しい母が、地味で平凡な私の処女をこの国で最も美しい男に奪わせようとしているらしい
魯恒凛
恋愛
富と権力を併せ持つ、国一番の美人であるマダムジョスティーヌからサロンへの招待状を受け取ったテオン。過ぎたる美貌のせいで出世を阻まれてきた彼の後ろ盾を申し出たマダムの条件は『九十九日以内に娘の処女を奪うこと』という不可解なもの。
純潔が重要視されないこの国では珍しい処女のクロエ。策略を巡らせ心と体を絆そうとするテオンだったが、純朴な彼女に徐々に惹かれてしまい……
自分に自信がない自称不細工な女の子が稀代のモテ男に溺愛されるお話です。
※R18は予告なしに入ります。
※ムーライトノベルズですでに完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる