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第一章 歌姫になるために
束縛と愛情の押し売り【4】
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バラの香りと湯気が立ちのぼるなか、すらりとした脚が泡を飛ばしながら天井に伸びる。
ふくらはぎと大腿に、ほどよくついた筋肉が、彼女の跳躍力を支えている。
『ねぇ、未優。
誰かを好きだと思う気持ちは、抑えれば抑えるほど強くなるし……そして、簡単に止められるものじゃない』
猫足のついたバスタブから、ざばっと、濡れて焦茶色に見える頭が出てくる。
顔に張りついた髪を乱暴によけて、未優は、バスタブの側に置かれたバラの花を型どったトレイに手を伸ばす。
髪留めを取り上げた。
(だって、もう、どうしようもない)
じわりとにじんだ涙を、バシャバシャと湯をかけて、流す。
手にした髪留めで髪をまとめると息をついて湯船に身体を沈ませた。
──「君は、馬鹿か」と言った留加の真意。
“種族”が違う者同士で、恋愛関係を結ぶことなど論外。
そんなことも解らないのか、それほどの無知なのかと……そう言いたかったのだろう。
つまり、留加の中で異なる“種族”を好きになるなど【あり得ないこと】なのだ。
(だけど……あたしは……)
まだ好きだった。
一緒に同じ時間を過ごし、同じ感覚を味わえた。それだけで、幸せだと思えた。
自分のための“奏者”になってくれるというだけで──。
(満足しなきゃ、いけないのに)
それ以上を望んでは、駄目だ。彼が自分に想いを寄せてくれないことも、知っているのだから。
(大丈夫。あたしには、夢があるもの)
“歌姫”になるという、夢が。
大切な夢を叶えてくれる手伝いを、自分が想いを寄せる相手がしてくれるのだ。
なんと幸運なことだろう。
『君のために、弾こう』
留加のくれた言葉が、未優のこれから先、“歌姫”になるための道の行く末を、光のように、照らしている──。
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