上 下
10 / 101
第一章 歌姫になるために

束縛と愛情の押し売り【3】

しおりを挟む
「──僕に用? それとも、彼女に?
まさか今時、“支配領域”争いってわけでは、ないよね?」

口調はやわらかいのに、声音は低く、放つ気配は殺気を帯びている。

……ふと、その気配がゆるんだと思ったら、慧一の声がして、彼の姿が未優の視界にも入ってきた。

「類は友を呼ぶってヤツか。未優、お前以外にも、トチ狂った趣味の“純血種”がいるとはな。
……まったく。おめでたい奴らだ」

「……君のお目付け役とかだったりする?
すごい殺気を感じたから、ちょっとヤバかったよ。
あと二秒、彼が姿を現わすのが遅かったら、僕、っちゃってたと思うよ」

こっそり未優に告げる風を装って、薫ははっきりと慧一に対して言っていた。

何気ない口調に潜んだ明確な殺意に、未優は改めて身震いする。
同じネコ科でも……やはり『虎』は格上だ。地位も、能力も。

「留加には会えたのか? “奏者”を、引き受けてくれることになったか?」

「じゃ、改めて、ディナーのお誘いをするね。僕はオマケがいても、全然気にしないから大丈夫。さ、行こう」

「……まだ練習し足りないというなら、幾つか練習場所を押さえてあるが、どうする」

「……君は、魚介類が好き? それとも、肉類かな? 僕は、どっちも好きだから君の希望の方へ連れて行くよ?」

互いに相手を無視した会話を続ける二人に、未優は小さく息をついた。
……何やら薄ら寒い空気を感じるのは、気のせいだろうか。

「──貴様、いいかげん未優から手を放せ」

「あぁ、やっとでたね、本音。……あのさ、守ることと束縛することって、違うよね?」

「愛情の押し売りは見ていて疲れる。よそでやってくれ」

未優の頭の上で火花が散った。
どこまでも平行線な二人の会話に耐えきれず、未優は叫んだ。

「もうっ! どっちもあたしの前から、消え失せろーっ!!」


†††††


毎日、素っ気なくあしらっているのに、相変わらずポン引きは、懲りずに声をかけてくる。

留加は、ケバケバしい看板が幾つもかかったその道を、足早に通り過ぎた。

三度目の客引きをかわした頃には、酒瓶と汚物が散らばった通路へと、たどり着く。

古びたスナックが両脇に何軒か立ち並び、木造の二階建てアパートが、それに続いた。
その階段を、留加はゆっくりと昇っていく。

ふいに、自らの奏でた音色と共鳴した、透明な歌声が呼び覚まされ、留加の足が止まる。

(いまさら迷って、どうするんだ)

きつく目を閉じて、それから前を見据える。
自分は弾くだけだ、あの【幼い“歌姫”】のために。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

スラム出身の公爵家庶子が、スラムの力を使って、後継者候補達を蹴落として、成り上がっていく。でも、性悪王女が可愛くてそれどころではないかも

秋田ノ介
ファンタジー
 スラムで生まれ育ったロランは、ただの平民として暮らしていた。周りには変態な錬金術の師匠と変態なハーフエルフのシスターがいたが何不自由なかった。しかし、スラムでは長らく続く戦争のせいで食料不足に陥る。そこでロランは立ち上がる。瞬く間に裏のリーダーとして君臨する。  ロランは知らない間に組織として育ち始める。そんな矢先にはロランが公爵家の庶子であることが知らされる。膨大な魔力を持っていたロランはすぐに公爵家の後継者争いに巻き込まれることになる。  ロランには貴族の教育もなく、癖のある兄弟たちに翻弄されてしまうが……ロランには皆が持っていない力があった。数万人というスラムの人達だ。スラムはロランの改革により、組織として育っており、後継者争いに役立つ情報を提供してくれる。  おかげで後継者争いを有利に運び、兄弟たちを蹴落としていく。そんな中、入学を強制された学園で運命の出会いをする。悲惨な境遇で荒んでしまった性悪王女は、前に一度会ったことのある子供だった。  すぐに恋仲となり、後継者争いより楽しくなってしまう。どうなる? 後継者争い。  カクヨム、小説家になろうにも掲載しております。  旧題「スラムから成り上がる〜スラム生まれの僕が公爵家の庶子らしいので裏組織《スラム》を使って宮廷魔術師筆頭を目指す」

マーメイド・セレナーデ 暗黒童話

平坂 静音
ホラー
人魚の伝説の残る土地に育ったメリジュス。 母を亡くし父親のいない彼女は周囲から白い目で見られ、しかも醜い痣があり、幼馴染の少年にからかわれていた。 寂しい日々に、かすかな夢をつないでいた彼女もとに、待っていた人があらわれたように思えたが……。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

転生帰録──鵺が啼く空は虚ろ

城山リツ
ファンタジー
 九百年あまり前、宮中に帝を悩ませる怪物が現れた。頭は猿、胴体は猪、尾は蛇、手足は虎である鵺という怪物はある武将とその郎党によって討ち取られた。だが鵺を倒したことによって武将達はその身に呪いを受けてしまい、翌年命を落とす。  それでも呪いは終わらない。鵺は彼らを何度も人間に転生させ殺し続ける。その回数は三十三回。  そして三十四回目の転生者、唯蕾生(ただらいお)と周防永(すおうはるか)は現在男子高校生。蕾生は人よりも怪力なのが悩みの種。幼馴染でオカルトマニアの永に誘われて、とある研究所に見学に行った。そこで二人は不思議な少女と出会う。彼女はリン。九百年前に共に鵺を倒した仲間だった。だがリンは二人を拒絶して──  彼らは今度こそ鵺の呪いに打ち勝とうと足掻き始める。 ◎感想などいただけたら嬉しいです! ※本作品は「ノベルアップ+」「ラノベストリート」などにも投稿しています。 ※※表紙は友人の百和様に描いていただきました。転載転用等はしないでください。 【2024年11月2日追記】 作品全体の体裁を整えるとともに、一部加筆修正を行いました。 セクションごとの内容は以前とほぼ変わっていません。 ☆まあまあ加筆したセクションは以下の通りです☆ 第一章第17話 鵺の一番濃い呪い(旧第一章1-17 一番濃い呪い) 第四章第16話 侵入計画(旧第四章4-16 侵入計画)

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

処理中です...