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番外編『邯鄲(かんたん)の夢』
僕の終わらない夢【2】
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「あの、サヤちゃんは僕にとって、前に住んでいた所のご近所さんで。たぶん幼なじみって言い方が、一番しっくりくると思うんだけど……。
あ、スーパータチバナ、知ってるよね? 県内に十数店舗あるし、市内にも三店舗あるくらいだから」
「……知ってるわよ、もちろん。そこのお嬢さんってことね。分かった」
この話題はこれでお終いと、いわんばかりに、まいさんは感情をこめない殺伐とした言い方をした。
……なんだか、お終いにできないような雰囲気だよ、まいさん?
付けっ放しのテレビからは、バラエティー特有の、観客の笑い声が響いてきてる。
まいさんの好きな、関西出身の男性アイドル二人組が司会の、歌とトークが主体の番組だった。
まいさんは笑いもせずに、テレビ画面を見ていた。
まいさんが特に好きな『彼』の絶妙な言い回しに、観客はわいているのに。
「まいさん、あの───」
「サヤちゃん、て。……ただの幼なじみって、わけじゃないんでしょ?」
「え?」
「言い方! あんたの、『サヤちゃん』の言い方が……なんか、特別っぽい感じがして……」
なんか、ヤだったの……、と、付け加えたまいさんの声は、頼りなげなささやきで。
マグカップをテーブルに戻して、まいさんは抱えたひざに顔を伏せた。
僕は、意識してサヤちゃんの名前を口にしたわけではないけど。
まいさんに、そういう『嫌な感じ』を与えてしまったのだとしたらすごく申し訳ない気がした。
「まいさん、ごめ───」
「そこ、謝るとこじゃないからね?」
まいさんの肩口に手をかけたとたん、顔を伏せたままの状態のまいさんから、じろりとにらまれた。
「あんたに、ちょっと特別な女の子がいたって、そんなこと……なんの不思議もない話だし。
むしろ今まであんたの口から、女の子の名前がでてこなかったほうが、不自然なくらいだったんだから。
これは……私の自分勝手な独占欲からくる、嫉妬なのよ。
───醜いうえに、なんて心が狭いの、私! もうっ……、ホントにヤな女!」
途中から悔し泣きをするような声音になるまいさんの様子に、せつなさと愛しさが奇妙に入り混じって、僕の胸を焦がした。
まいさんの肩を抱き寄せずには、いられなくなる。
「……あのね、まいさん。本当に嫌な人間は、自分のことを『嫌な奴』だなんて、省みない人のことをいうんだよ?
第一、それを言ったら僕だって」
言いながら、テレビのリモコンに手を伸ばし、電源を落とした。
「……まいさんが好きな芸能人が僕と全然違うタイプで、正直、面白くないんだよ」
「…………あんた、どっちかっていうと、王子系だしね」
「───自分が男っぽい顔立ちじゃないのは、重々承知しているからね。
もう一人のほうが好き、って言われてれば、ちょっとは気分良かったけど」
僕の言葉に、くすっと笑うまいさんに、ほっと息をつく。
……良かった、笑ってくれて。
「だから僕は、本当はまいさんが『イイ』と思う世の中のすべての男性を、まいさんの視界に入れたくないくらい、まいさんを独り占めしたいんだよ?
でも、そんなの……なんか、カッコ悪いじゃないか。
それでやせ我慢して、平気なふりしているだけなんだ。
……こうやって、まいさんが『彼』に夢中になってる横で、ココアを飲みながらね。
───こんなことを言うのも、本当は、すごく格好つかないし、嫌だけど……でも」
まいさんの頬にかかった髪を指で梳いて、あらわになった頬に、自分の頬を寄せた。
……僕より体温が高いまいさんはいつもやわらかくて、あたたかい───まいさんの魂そのものを、表すかのように。
「『僕の大好きなまいさん』を、まいさん自身がけなすのは、僕のちっぽけなプライドなんかどうでもいいくらい、赦せないことだから。
そんな風に自分をおとしめるようなことは、二度と言わないでほしいな。
まいさんが誰よりも素敵で、優しくて心が広い女性だってことは、僕が一番、解っているんだから。
僕の、お墨付きだよ?」
ふふっと笑うと、まいさんが鼻をすすってるのが分かった。
身動いだまいさんの両腕が、僕の首の後ろにまわされる。
「大地……好き………大好き」
かすれた声が甘く告げて、僕の心と身体を優しくしめつける。
幸せな溜息をつきながら、まいさんを抱きしめ返した。
あ、スーパータチバナ、知ってるよね? 県内に十数店舗あるし、市内にも三店舗あるくらいだから」
「……知ってるわよ、もちろん。そこのお嬢さんってことね。分かった」
この話題はこれでお終いと、いわんばかりに、まいさんは感情をこめない殺伐とした言い方をした。
……なんだか、お終いにできないような雰囲気だよ、まいさん?
付けっ放しのテレビからは、バラエティー特有の、観客の笑い声が響いてきてる。
まいさんの好きな、関西出身の男性アイドル二人組が司会の、歌とトークが主体の番組だった。
まいさんは笑いもせずに、テレビ画面を見ていた。
まいさんが特に好きな『彼』の絶妙な言い回しに、観客はわいているのに。
「まいさん、あの───」
「サヤちゃん、て。……ただの幼なじみって、わけじゃないんでしょ?」
「え?」
「言い方! あんたの、『サヤちゃん』の言い方が……なんか、特別っぽい感じがして……」
なんか、ヤだったの……、と、付け加えたまいさんの声は、頼りなげなささやきで。
マグカップをテーブルに戻して、まいさんは抱えたひざに顔を伏せた。
僕は、意識してサヤちゃんの名前を口にしたわけではないけど。
まいさんに、そういう『嫌な感じ』を与えてしまったのだとしたらすごく申し訳ない気がした。
「まいさん、ごめ───」
「そこ、謝るとこじゃないからね?」
まいさんの肩口に手をかけたとたん、顔を伏せたままの状態のまいさんから、じろりとにらまれた。
「あんたに、ちょっと特別な女の子がいたって、そんなこと……なんの不思議もない話だし。
むしろ今まであんたの口から、女の子の名前がでてこなかったほうが、不自然なくらいだったんだから。
これは……私の自分勝手な独占欲からくる、嫉妬なのよ。
───醜いうえに、なんて心が狭いの、私! もうっ……、ホントにヤな女!」
途中から悔し泣きをするような声音になるまいさんの様子に、せつなさと愛しさが奇妙に入り混じって、僕の胸を焦がした。
まいさんの肩を抱き寄せずには、いられなくなる。
「……あのね、まいさん。本当に嫌な人間は、自分のことを『嫌な奴』だなんて、省みない人のことをいうんだよ?
第一、それを言ったら僕だって」
言いながら、テレビのリモコンに手を伸ばし、電源を落とした。
「……まいさんが好きな芸能人が僕と全然違うタイプで、正直、面白くないんだよ」
「…………あんた、どっちかっていうと、王子系だしね」
「───自分が男っぽい顔立ちじゃないのは、重々承知しているからね。
もう一人のほうが好き、って言われてれば、ちょっとは気分良かったけど」
僕の言葉に、くすっと笑うまいさんに、ほっと息をつく。
……良かった、笑ってくれて。
「だから僕は、本当はまいさんが『イイ』と思う世の中のすべての男性を、まいさんの視界に入れたくないくらい、まいさんを独り占めしたいんだよ?
でも、そんなの……なんか、カッコ悪いじゃないか。
それでやせ我慢して、平気なふりしているだけなんだ。
……こうやって、まいさんが『彼』に夢中になってる横で、ココアを飲みながらね。
───こんなことを言うのも、本当は、すごく格好つかないし、嫌だけど……でも」
まいさんの頬にかかった髪を指で梳いて、あらわになった頬に、自分の頬を寄せた。
……僕より体温が高いまいさんはいつもやわらかくて、あたたかい───まいさんの魂そのものを、表すかのように。
「『僕の大好きなまいさん』を、まいさん自身がけなすのは、僕のちっぽけなプライドなんかどうでもいいくらい、赦せないことだから。
そんな風に自分をおとしめるようなことは、二度と言わないでほしいな。
まいさんが誰よりも素敵で、優しくて心が広い女性だってことは、僕が一番、解っているんだから。
僕の、お墨付きだよ?」
ふふっと笑うと、まいさんが鼻をすすってるのが分かった。
身動いだまいさんの両腕が、僕の首の後ろにまわされる。
「大地……好き………大好き」
かすれた声が甘く告げて、僕の心と身体を優しくしめつける。
幸せな溜息をつきながら、まいさんを抱きしめ返した。
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