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番外編『邯鄲(かんたん)の夢』

僕の終わらない夢【1】

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お正月ムードもすっかり過ぎ去って、学校も始まって。

まいさんとの楽しいバイト生活もあっという間に終わってしまった。

「───あんた、またバイトするんだって?」

夕食後、リビングでバラエティー番組を観ていたまいさんが、思いだしたように声をかけてきた。

僕は、まいさんと自分のために用意したココアの入ったマグカップを持って、まいさんの隣に腰かけた。

「うん。……お父さんから聞いたの?」

学校へのバイト許可申請に保護者の同意が必要で、お父さんには話していたけど、まいさんには話していなかった。

お父さんは、昨日の晩からまいさんのおばあちゃん───つまり、お父さんの実家に年始を兼ねて里帰りしていた。

「まぁね。
……あんたの小遣い少ないのかって相談されたから、社会勉強したい年頃なんでしょって言っといてあげたわよ。
なに、よっぽど高くて欲しい物があるの?」

マグカップを受け取りながら、興味深そうに僕を見るまいさんにごまかすように笑った。

「うん、ちょっとね」

まいさんへのプレゼントのためだよ、なんて正直に言ったら、絶対まいさん、

「いらんことすんな」

って言いそうだから、口が裂けても言えないな。

事実、まいさんの誕生日にお小遣いを貯めてプレゼントしようとした時も、

「あんたの小遣いはあんたのために使いなさいよ。
……気持ちだけで、十分なんだからね!」

って、物凄く念を押されて、仕方なく僕は、まいさんへの想いのたけをつづった生まれて初めて書いたラブレターを贈ったんだ。

そうしたら、

「…………本当に、『気持ち』寄越したわね?」

なんて、あきれながらも、照れくさそうに受け取ってくれた。

───そんなまいさんだから、今度は……今度こそは、きちんとしたものを贈りたいって、思えたんだ。

だからお父さんに、

「この前の君の話を聞いて思ったんだが……このまま私が君の後見人でいるより、養子縁組をして佐木の家に入ってもらうほうが、君の立場も安定するかと思うんだがどうだろうか?」

なんて言われた時は、本当に焦ってしまって、思わず、

「いずれ違う形で、佐木家に入る予定なんですが」

って言ってしまいそうになって、あわてて、

「考えさせてください」

とか、曖昧あいまいに応えておいたんだけど。

「で、どこでバイトするのよ?」
「───サヤちゃんちのスーパーだよ」

お父さんに僕たちのことをいつ話すのって何度訊いても、まいさんの答えは「そのうちね」だからなぁ。

……なんて考えていた僕は、まいさんの問いかけに、深く考えずに答えてしまった。

「………………サヤちゃん、て、誰」

まいさんと一緒にぬくぬくとひざ掛けにくるまっていたはずの僕の背筋が、一瞬にして凍りそうなくらいの冷たく低い声が、まいさんから放たれる。

───えぇっと。

そういえば、まいさんにサヤちゃんのことはもちろん、透さんのことも話したことなかったっけ……。

実は、透さんのほうからは、

「一回、オネーサンに会わせろや。オレからお前のこと、くれぐれもヨロシクって言っといてやるから。
な?」

とかって、しつこく電話で言われてるんだけど。

透さんの「くれぐれもヨロシク」は、なんだか嫌な予感がして。

まいさんが透さんから『おかしなヨロシク』をされたらと思うと、うかつに紹介なんて、できやしなかった。

「えっと、サヤちゃんは………………幼なじみ?」
「───はあ?」

サヤちゃんは、どうしても透さんとセットで僕のなかに存在していて。

サヤちゃんのことを考えると、透さんまで思い返されて……むしろ透さんのほうが、主張されてきてしまって。

僕は、サヤちゃんと僕の関係性を、透さん抜きで考えられないことに改めて気づかされた。

───だから疑問形で答えてしまったのだけど、まいさんが放つ不快オーラを、ますます濃いものにしてしまった。

……失敗した。
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