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番外編『邯鄲(かんたん)の夢』
僕の想いの負債額【2】
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息苦しいくらいに幸せな鼓動をなだめるように、まいさんの髪に指をからめて引き寄せて、もう一方の腕で、身体の自由を奪う。
「───ね、まいさん? さっきの言葉の続き、ちゃんと聞かせて?
僕って……なに?
心配しなくても僕以外の誰にも聞かれやしないから、きちんと言葉にして、伝えて?」
かろうじて呼吸ができそうなくらいに僕の胸から顔を離したまいさんが、本当に誰にも聞かせるつもりがないくらいの小さな声を、もらす。
「……あんたって……私には、もったいないくらい……いい男よ……!」
言いきって、照れくさそうに頬を寄せるまいさんに、くすっと笑ってみせた。
「それは違うよ、まいさん。
僕のほうが、おつりがきてしまうくらい、まいさんから幸せな気分を、たくさんもらっているんだから。
これ以上、僕の想いの負債額を増やされたら、どうやって返していいのか、解らなくなってしまうよ?」
髪のなかに入れた指先でもって、そっとまいさんを上向かせる。
上気した頬も、高ぶった感情に潤む瞳も、わずかに開かれた唇も……僕を惑わすには、十分だったけど。
───軽く触れるだけのキスにとどめて、もう一度だけ、まいさんを抱きしめ返し、やんわりと身体を離した。
「帰ろう、まいさん。───ほら、ほっぺ冷たくなっちゃってるし」
手の甲で、まいさんの片頬に触れると、我に返ったように、まいさんが歩きだした。
ぼそっと、つぶやく。
「……ちょっと反省。
なんか私、だんだん大地に毒されてきてる気がする……」
「毒されてるだなんて、ヒドイなぁ。これでもイロイロ我慢してるのに。
……今日、多香子さんに注意されたばっかりだし」
「多香ちゃんが? あんたに? なんて?」
初耳だといわんばかりに、まいさんが僕のコートの腕をつかんで訊いてくる。
僕は多香子さんに言われたことを、そっくりそのまま、まいさんに伝えた。
聞いていくうちに、まいさんが、耳までみるみる赤くなった。
「ちょ……ちょっと、ヤダーッ! あんた達、職場でナニ話してんのよーっ。
ってか明日、多香ちゃんと、どんな顔して会えばいいのっ!?」
「いまのまま、普通の可愛いまいさんの顔で、会えばいいんじゃない?」
「そういうこと言ってんじゃないわよっ」
「あ、それと。
多香子さんによると、僕の愛情表現がダメダメすぎて、まいさんが自分の魅力に気づいてないらしいってことだから。
僕は、いままで以上に、まいさんに語る想いを勉強しなきゃいけないみたい」
「……これ以上、あんたのアホ話を長くする必要が、いったいどこにあるっていうのよ?」
「ふふっ、そんなこと言って……ホントは楽しみにしてくれてるんでしょ?
朝も昼も夜も、まいさんがどれだけ素敵な女性かってこと、僕が手取り足取り教えて自覚させてあげるからね?」
「───だからっ、あんたの頭のなか、いったいどういう仕組みになってるのよーっ」
───まいさんの可愛いらしい悲鳴を聞きながら、僕は、明日からのまいさんとの『お仕事』に胸を弾ませた。
遠足前日の、小学生のように。
「───ね、まいさん? さっきの言葉の続き、ちゃんと聞かせて?
僕って……なに?
心配しなくても僕以外の誰にも聞かれやしないから、きちんと言葉にして、伝えて?」
かろうじて呼吸ができそうなくらいに僕の胸から顔を離したまいさんが、本当に誰にも聞かせるつもりがないくらいの小さな声を、もらす。
「……あんたって……私には、もったいないくらい……いい男よ……!」
言いきって、照れくさそうに頬を寄せるまいさんに、くすっと笑ってみせた。
「それは違うよ、まいさん。
僕のほうが、おつりがきてしまうくらい、まいさんから幸せな気分を、たくさんもらっているんだから。
これ以上、僕の想いの負債額を増やされたら、どうやって返していいのか、解らなくなってしまうよ?」
髪のなかに入れた指先でもって、そっとまいさんを上向かせる。
上気した頬も、高ぶった感情に潤む瞳も、わずかに開かれた唇も……僕を惑わすには、十分だったけど。
───軽く触れるだけのキスにとどめて、もう一度だけ、まいさんを抱きしめ返し、やんわりと身体を離した。
「帰ろう、まいさん。───ほら、ほっぺ冷たくなっちゃってるし」
手の甲で、まいさんの片頬に触れると、我に返ったように、まいさんが歩きだした。
ぼそっと、つぶやく。
「……ちょっと反省。
なんか私、だんだん大地に毒されてきてる気がする……」
「毒されてるだなんて、ヒドイなぁ。これでもイロイロ我慢してるのに。
……今日、多香子さんに注意されたばっかりだし」
「多香ちゃんが? あんたに? なんて?」
初耳だといわんばかりに、まいさんが僕のコートの腕をつかんで訊いてくる。
僕は多香子さんに言われたことを、そっくりそのまま、まいさんに伝えた。
聞いていくうちに、まいさんが、耳までみるみる赤くなった。
「ちょ……ちょっと、ヤダーッ! あんた達、職場でナニ話してんのよーっ。
ってか明日、多香ちゃんと、どんな顔して会えばいいのっ!?」
「いまのまま、普通の可愛いまいさんの顔で、会えばいいんじゃない?」
「そういうこと言ってんじゃないわよっ」
「あ、それと。
多香子さんによると、僕の愛情表現がダメダメすぎて、まいさんが自分の魅力に気づいてないらしいってことだから。
僕は、いままで以上に、まいさんに語る想いを勉強しなきゃいけないみたい」
「……これ以上、あんたのアホ話を長くする必要が、いったいどこにあるっていうのよ?」
「ふふっ、そんなこと言って……ホントは楽しみにしてくれてるんでしょ?
朝も昼も夜も、まいさんがどれだけ素敵な女性かってこと、僕が手取り足取り教えて自覚させてあげるからね?」
「───だからっ、あんたの頭のなか、いったいどういう仕組みになってるのよーっ」
───まいさんの可愛いらしい悲鳴を聞きながら、僕は、明日からのまいさんとの『お仕事』に胸を弾ませた。
遠足前日の、小学生のように。
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