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番外編『邯鄲(かんたん)の夢』
僕の想いの負債額【1】
しおりを挟む従業員専用の通用口で多香子さんと別れたあと、まいさんが申し訳なさそうに言った。
「急に……ごめんね。こんなことになっちゃって。
いまからじゃ学校の許可も取れないし……ホントは、あんたに頼むの、よくないって解ってるけど」
まいさんの瞳が、懇願するように、僕を見つめる。
「多香ちゃんのいう通り、あんたなら気心が知れてるし、引き受けてもらえると、かなり助かるんだけど……。
大丈夫、かな……?」
おそるおそるといった感じで訊いてくるまいさんに、僕は失笑をもらした。
「やだな、まいさん。そんなに可愛い顔で僕にお願いして、僕が断れるとでも思っているの?
僕は、僕にできることなら、なんでもまいさんにしてあげたいんだから。遠慮しないで、ね?」
隣を歩くまいさんに、首を傾けて笑ってみせる。
まいさんは、そんな僕をしばらく見つめたあと、前に向き直って溜息をついた。
「……ずっと前、私、あんたの好意をむげに退けておいて……なのに、こんな風に自分の都合で、あんたを利用しようとしてるのよ? ちょっとは、怒りなさいよ……」
冬の空気に溶けていく、白い吐息さえも綺麗だな……。
なんて思っていた僕は、すねたようなまいさんのつぶやきを、危うく聞き逃しそうになっていた。
……うらめしいくらいに僕の心はまいさんに付随するすべてのものに、動かされてしまうんだ。
「どうして、怒らなきゃいけないの? まいさんと一緒に過ごせる時間が増えて、僕はすごく嬉しいのに。
自分の気持ちに逆らって、まいさんを責めるだなんて……僕には、そういう趣味は、ないからね?」
ふふっと笑う僕の顔に、まいさんが指をつきつけてきた。
「───言っとくけど、時給、すんごく安いわよ?
おまけに、臨時雇いなうえに期間だって短いし。高校生ってコトで、さらに値切られるんだからね!」
「そうなんだー、良かった。じゃあ僕、お買い得ってことだよね?」
安売り野菜の話でもするかのようなまいさんに応えて、片目をつぶってみせる。
そんな僕を見上げ、まいさんが眉根を寄せた。
唇を、すぼませる。
「あんたって……本当……っ……」
いまにも泣きだしそうな顔を見せてくれたのは、一瞬で。
気づいた時には、僕はまいさんに抱きつかれていた。
……えぇっと。
まだ職場から50メートルくらいしか離れてないけど、いいのかな?
もちろん僕は、いいんだけど。
むしろ大歓迎。
まいさんのほうからぎゅっとしてくれるなんて、なかなかないシチュエーションに、僕の心臓が痛いほど脈うつ。
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