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番外編『邯鄲(かんたん)の夢』
多香子さんの『お説教』【3】
しおりを挟む「これ、今日、舞さんが困った顔して『多香ちゃん旦那さんいるのにねー』って、私に持ってきたんだけど。
どう考えても、私じゃなくて、舞さん目当てで渡されたものなのよ」
いまいましそうに、多香子さんが片手で紙片を払うように叩く。
「舞さんのカレシくんに言うのは失礼だと思うけど。
舞さんって、ぱっと見は、とびきり美人ってわけでも、ムチャクチャ可愛いってわけでもないと思うの。
だけど、物腰は女性的でやわらかだし、話し方はすごく丁寧で聞きやすいし、きわめつけは笑顔がすっごく素敵でしょ?
……ちなみに私、素敵って、こういう場合に使うんだーって、舞さんの笑顔初めて見た時に、感動したくらい。
で、そんな舞さんだから、ぶっちゃけ老若男女にモテるわけ。
ちっちゃい子からお年寄りまで、ストライクゾーン広すぎるっていうかなんていうか……。
まぁ正しくは、接客のプロ、ってことなんだと思うんだけどね。臨機応変、って感じ?」
僕は、まいさんの接客姿を見るのが、日課のようなところもあるから───多香子さんの話には、素直にうなずけた。
先日も70代くらいの男性に、
「あんた美人だなぁ……」
って、見惚れられてたし。
いつだったかは中年女性に、
「さっきまですごい不愉快だったんだけど、あなたの笑顔見てたら、そんな気分どこかにいっちゃったわ」
なんて、褒められてたし。
うん、すごく、分かりすぎるくらい、分かるかも。
「だから、カンチガイした男の客が来るのも、まぁムリもないんだけど。
『あの微笑みはオレだけに向けてくれてるんだ』
って、思っちゃうような?
なにしろ、一人ひとりに対して心をこめて接客してるからね、舞さんって」
僕は目を泳がせた。
……うん、ここにも一人、いるからね……。
「で! 問題は、そこじゃなくてッ!」
ダンッ、と、多香子さんがテーブルを叩く。
僕をにらみつけるように、見据えてくる。
「大地クン、ちゃんと言ったほうがいいよ、舞さんに!」
「…………えっと、ごめんなさい。何を、ですか?」
多香子さんの話の流れは、どうも要領を得なかった。まいさんに連絡先を渡すような男性客がいるのは、まぁ僕の予想の範疇だし。
だからって、それをまいさんに「受け取るな」っていうのも……なんだか、違う気がするし。
それに、接客業に携わっている多香子さんなら『お客様』に下手な態度は取れないってことも、分かるはずで。
そういった忠告でも、ないと思えたからだ。
「もうっ、鈍いなぁっ! 舞さんに『可愛いね』とか『素敵だね』って、ちゃんと言ってあげてる?」
「………………は?」
そっち?
というより、話の流れから大きく逸れているような気がするのは、僕の気のせいだろうか?
「は? じゃあないでしょっ!
さわやかな顔して、エッチなことしかしてないんじゃない!?
舞さん休みの日の翌日、だいたいいつも筋肉痛みたいだし!」
……ああ、それは……否定できないけど……。
「女子にとっては、カラダのつながりより、ココロのつながりのほうが、大事なんだからね!
若いからって、エッチばっかり求めてちゃ、だめなんだよ?」
「えっと……はい」
「で、自覚なさすぎる舞さんに、延々と舞さんの魅力を説いてあげるの。
そうしたら、自分目当てで来てる男性客に対しての対応も、少しは変わってくるだろうし」
「……はい、解りました」
「舞さん、自分の魅力に無頓着すぎるのよ。そこんとこも、大地クン、しっかりクギさしておいてね!」
───僕は、まいさんが会議から帰ってくるまでのあいだ、多香子さんからこってり『お説教』された。
なんていうか多香子さんは、僕と同じくらい『まいさん信者』なんだって、思いしらされた時間だった。
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