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番外編『花月夜の誓い』──ユーヤ視点──
10.決意に代えて
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「ユーヤ、また……私を、からかっているの……?」
エマの声に、現実に引き戻される。
彼女はジークをかかえたまま、俺を見つめていた。
ひきつったその笑みは、この現状が俺とジークの先ほどの芝居の続きだと、信じたい思いからだろう。
俺はそんなエマの想いから逃れるように視線をそらし、テーブルへグラスを戻した。
「このワイン……ユーヤが持ってきたの?
「───……そうだよ」
慎重に、俺は答えた。
このワインが、カミューラからもらった物だとさとられないために。
「何か、入ってるって……」
「たぶん、スラントの毒だろ」
エマが、目をみはった。
「───ねえっ」
震える唇で、エマは甲高い声をあげた。
「違う、わよね……? ワインに毒を入れ……ジーク、殺すだな……て。ユーヤ……そんなこと、しな……わよね!?」
エマは舌をもつれさせながらも、俺の真意を探ろうとしている。
俺は、とてつもない絶望感と罪の意識をかかえ、低く応えた。
「ごめん……」
とたん、エマは俺を見ながら大きく首を振って、俺に何かを言いかけ、それからひきつけを起こすように大きく息を吸った。
「───いやぁっ……!!」
エマの絶叫を背に受け、俺は城をあとにした。
「お帰りなさい、ユーヤ」
なんとも艶やかに微笑んで、カミューラは俺を出迎えた。
「遅かったわね。……いま、料理を温め直すわね」
「───カミューラ」
「なぁに?」
「ジークは、死んだよ」
カミューラの返答如何によっては、俺は彼女を赦すまいと思った。
殺すかもしれないとさえ、思った。
「……そう」
穏やかな表情でうなずいて、カミューラはまっすぐに俺を見返した。
「あなたが王位に就けなかった理由が、私、最近やっと分かったの。
ジークにあって、あなたにないもの。……それは、野心よ。
スメルムーンにふさわしいのは、ユーヤだもの。
あなたが王に推されなかったのは、あなたが真剣じゃなかったからよ。
最初から本気をだしていれば、あなたが絶対に王になれていたはずだもの。だから、ジークを消したの。
最初から、あなたにやり直してもらうために」
背伸びをしたカミューラの両腕が、俺の首の後ろに回された。
にっこりと笑い、俺を見つめる。
「これで……王位はあなたのものよ」
その瞳からうかがえるのは、無邪気さと、喜び。
一片たりとも後ろめたさも罪の意識も見当たらない。
───俺は目を閉じた。
カミューラにこんな選択をさせたのは、この俺だ。
俺のいいかげんな行いが、彼女を狂わせた。
なぜ……。
なぜもっと早く、本気になれなかったんだ。
こんなにも彼女を追いつめる前に───。
失ってしまったものの大きさにおののき、俺は動きだせずにいた。
分かっているのは、カミューラを追いつめたのは俺で。
無二の親友を殺したのも俺で。
そして、なんの関係もないエマの幸せを奪ったのも……。
俺、なんだ。
それを、俺は認めなければならない。
認め、それを悔いるのなら……俺は彼らにつぐなわなければならない。
俺にできることを、全力で───。
「……カミューラ」
呼びかけに応じ、ふわりと微笑む彼女に、俺はこれから始める償いの決意に代えて、言った。
「ありがとう」
それから、俺のこれからが始まる。
【花月夜の誓い・終】
エマの声に、現実に引き戻される。
彼女はジークをかかえたまま、俺を見つめていた。
ひきつったその笑みは、この現状が俺とジークの先ほどの芝居の続きだと、信じたい思いからだろう。
俺はそんなエマの想いから逃れるように視線をそらし、テーブルへグラスを戻した。
「このワイン……ユーヤが持ってきたの?
「───……そうだよ」
慎重に、俺は答えた。
このワインが、カミューラからもらった物だとさとられないために。
「何か、入ってるって……」
「たぶん、スラントの毒だろ」
エマが、目をみはった。
「───ねえっ」
震える唇で、エマは甲高い声をあげた。
「違う、わよね……? ワインに毒を入れ……ジーク、殺すだな……て。ユーヤ……そんなこと、しな……わよね!?」
エマは舌をもつれさせながらも、俺の真意を探ろうとしている。
俺は、とてつもない絶望感と罪の意識をかかえ、低く応えた。
「ごめん……」
とたん、エマは俺を見ながら大きく首を振って、俺に何かを言いかけ、それからひきつけを起こすように大きく息を吸った。
「───いやぁっ……!!」
エマの絶叫を背に受け、俺は城をあとにした。
「お帰りなさい、ユーヤ」
なんとも艶やかに微笑んで、カミューラは俺を出迎えた。
「遅かったわね。……いま、料理を温め直すわね」
「───カミューラ」
「なぁに?」
「ジークは、死んだよ」
カミューラの返答如何によっては、俺は彼女を赦すまいと思った。
殺すかもしれないとさえ、思った。
「……そう」
穏やかな表情でうなずいて、カミューラはまっすぐに俺を見返した。
「あなたが王位に就けなかった理由が、私、最近やっと分かったの。
ジークにあって、あなたにないもの。……それは、野心よ。
スメルムーンにふさわしいのは、ユーヤだもの。
あなたが王に推されなかったのは、あなたが真剣じゃなかったからよ。
最初から本気をだしていれば、あなたが絶対に王になれていたはずだもの。だから、ジークを消したの。
最初から、あなたにやり直してもらうために」
背伸びをしたカミューラの両腕が、俺の首の後ろに回された。
にっこりと笑い、俺を見つめる。
「これで……王位はあなたのものよ」
その瞳からうかがえるのは、無邪気さと、喜び。
一片たりとも後ろめたさも罪の意識も見当たらない。
───俺は目を閉じた。
カミューラにこんな選択をさせたのは、この俺だ。
俺のいいかげんな行いが、彼女を狂わせた。
なぜ……。
なぜもっと早く、本気になれなかったんだ。
こんなにも彼女を追いつめる前に───。
失ってしまったものの大きさにおののき、俺は動きだせずにいた。
分かっているのは、カミューラを追いつめたのは俺で。
無二の親友を殺したのも俺で。
そして、なんの関係もないエマの幸せを奪ったのも……。
俺、なんだ。
それを、俺は認めなければならない。
認め、それを悔いるのなら……俺は彼らにつぐなわなければならない。
俺にできることを、全力で───。
「……カミューラ」
呼びかけに応じ、ふわりと微笑む彼女に、俺はこれから始める償いの決意に代えて、言った。
「ありがとう」
それから、俺のこれからが始まる。
【花月夜の誓い・終】
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