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番外編『花月夜の誓い』──ユーヤ視点──
7.お祝いよ
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宵闇に消え入りそうな声で言うと、カミューラは俺に抱きついてきた。
「───会いたかったわ……ずっと……」
吐息のように告げられた言葉に、うなずき返す。
「俺もだよ」
するとカミューラは、ぱっと顔を上げ、何かを求めるようにして俺を見た。
「本当に……? 怒って、ないの?」
俺は笑って返した。
「何を? 気づかせてくれたことには感謝してるけど」
「ユーヤ……」
一瞬のち、つっ……とひとすじの涙がカミューラの頬を伝った。
「私……ひどいこと、あなたに言ったわ。でも、いまでもあの時と考えは変わってない。
それなのに……赦してくれるの?」
俺は彼女の頬の涙をぬぐって、微笑んだ。
「君は何も間違ったことは言ってないよ。いつもありのままの自分を俺にぶつけてくる。
……赦すも赦さないもないだろ」
「───ユーヤ……!」
ぎゅっと俺を抱きしめる腕に力をこめるカミューラに応えて、彼女の背に腕を回し、その髪をなでた。
「好きよ、ユーヤ。愛してるわ。あなたを失いたくないの。私のなかでいつも一番なのは、あなたなの。
あなた以外は、いらない」
「カミューラ……」
そっと顔をあげる彼女に、唇を寄せる。
長いくちづけのあと、思いだしたようにカミューラが言った。
「いけない。ユーヤ、城に向かう途中だったのよね。ごめんなさい。
ちょっと待ってて」
俺から離れると、カミューラは近くの枝から木の葉を摘み、そこに唇を押しあて吹いた。
鳥の高い鳴き声のような音が辺りに響き渡ると、しばらくして彼女のペット、ゼランダルがやってきて、地上へと翼を伏せた。
カミューラは、ゼランダルの首に巻き付いていた布袋のなかから、一本のボトルを取り、俺に差し出してくる。
「これ……お祝いよ」
「え?」
驚く俺の前で、カミューラが目を伏せた。
「王位は……残念だったわね。でも、決まってしまったものは仕方ないわ。
だから……お祝いなの。口に合うかは分からないけど、ジークにあげて」
「ああ。ありがとう」
「……早く帰って来てね。残念会、しましょう」
「分かった」
心遣いを素直に受け取り、笑って俺を見送るカミューラにうなずき返し、背を向けた。
儀式は滞りなく終わり、立会人たちは儀式成功を喜び分かち合いながら、家路に就いた。
俺は、城に集った人々がジークに対して祝いの言葉をかけ終えるのを待って、ヤツに声をかけた。
「良かったな。……灰にならなくて」
それまで堅い表情で祝福を受けていたジークが、一変して気安い顔になって俺をにらむ。
「お前は! 終わったからこそシャレになるけどなー、当人としてはシャレになんないくらい緊張したんだぞ!」
「分かってるよ、もちろん」
からかうように笑ってやれば、ジークは横を向いて舌打ちした。
「……っとに、冗談じゃねーよ。───挙式前の花嫁残して死ねるかよ……」
だんだんと小声になっていくジークに、俺は親しみをこめて肩を抱いてやる。
「そうなってたら、俺がエマを誠心誠意なぐさめて、お前のことなんか忘れさせてやったけど」
「それこそ、シャレになんねーだろっ!」
「───ジーク」
そこへ、張りの失せたものの、気品ある女性の低い声音がヤツの名を呼び、制した。
「場所をわきまえなさい。君主たる者が儀式を終えた直後にする言動ですか。父上がお嘆きですよ」
「しかし母上」
不満をあらわに反論しかけたジークに対し、カザリン王妃……いや、元王妃である彼女は、ひらりとマントのすそをひるがえし、出口を示す。
「早くお行きなさい。……次期王妃があなたをお待ちですよ」
次いで、表情を和らげ俺に微笑む。
「ユーヤ。ご苦労様でした。あなたも、今日はゆっくり休んで」
「はい」
うなずく俺を見届け、元王妃は大広間を出て行った。
「ったく……」
腕を組んでその背中を見送るジークは、儀式中とは打って変わり、幼いいたずら盛りの少年を思わせた。
「エマは苦労しそうだな……」
「なんか言ったか?」
「……エマ、待ってるんだろ? 早く行ったほうがいいんじゃないか?」
じろりと俺をにらみ据えたジークが、直後、やば……とつぶやいた。
「───会いたかったわ……ずっと……」
吐息のように告げられた言葉に、うなずき返す。
「俺もだよ」
するとカミューラは、ぱっと顔を上げ、何かを求めるようにして俺を見た。
「本当に……? 怒って、ないの?」
俺は笑って返した。
「何を? 気づかせてくれたことには感謝してるけど」
「ユーヤ……」
一瞬のち、つっ……とひとすじの涙がカミューラの頬を伝った。
「私……ひどいこと、あなたに言ったわ。でも、いまでもあの時と考えは変わってない。
それなのに……赦してくれるの?」
俺は彼女の頬の涙をぬぐって、微笑んだ。
「君は何も間違ったことは言ってないよ。いつもありのままの自分を俺にぶつけてくる。
……赦すも赦さないもないだろ」
「───ユーヤ……!」
ぎゅっと俺を抱きしめる腕に力をこめるカミューラに応えて、彼女の背に腕を回し、その髪をなでた。
「好きよ、ユーヤ。愛してるわ。あなたを失いたくないの。私のなかでいつも一番なのは、あなたなの。
あなた以外は、いらない」
「カミューラ……」
そっと顔をあげる彼女に、唇を寄せる。
長いくちづけのあと、思いだしたようにカミューラが言った。
「いけない。ユーヤ、城に向かう途中だったのよね。ごめんなさい。
ちょっと待ってて」
俺から離れると、カミューラは近くの枝から木の葉を摘み、そこに唇を押しあて吹いた。
鳥の高い鳴き声のような音が辺りに響き渡ると、しばらくして彼女のペット、ゼランダルがやってきて、地上へと翼を伏せた。
カミューラは、ゼランダルの首に巻き付いていた布袋のなかから、一本のボトルを取り、俺に差し出してくる。
「これ……お祝いよ」
「え?」
驚く俺の前で、カミューラが目を伏せた。
「王位は……残念だったわね。でも、決まってしまったものは仕方ないわ。
だから……お祝いなの。口に合うかは分からないけど、ジークにあげて」
「ああ。ありがとう」
「……早く帰って来てね。残念会、しましょう」
「分かった」
心遣いを素直に受け取り、笑って俺を見送るカミューラにうなずき返し、背を向けた。
儀式は滞りなく終わり、立会人たちは儀式成功を喜び分かち合いながら、家路に就いた。
俺は、城に集った人々がジークに対して祝いの言葉をかけ終えるのを待って、ヤツに声をかけた。
「良かったな。……灰にならなくて」
それまで堅い表情で祝福を受けていたジークが、一変して気安い顔になって俺をにらむ。
「お前は! 終わったからこそシャレになるけどなー、当人としてはシャレになんないくらい緊張したんだぞ!」
「分かってるよ、もちろん」
からかうように笑ってやれば、ジークは横を向いて舌打ちした。
「……っとに、冗談じゃねーよ。───挙式前の花嫁残して死ねるかよ……」
だんだんと小声になっていくジークに、俺は親しみをこめて肩を抱いてやる。
「そうなってたら、俺がエマを誠心誠意なぐさめて、お前のことなんか忘れさせてやったけど」
「それこそ、シャレになんねーだろっ!」
「───ジーク」
そこへ、張りの失せたものの、気品ある女性の低い声音がヤツの名を呼び、制した。
「場所をわきまえなさい。君主たる者が儀式を終えた直後にする言動ですか。父上がお嘆きですよ」
「しかし母上」
不満をあらわに反論しかけたジークに対し、カザリン王妃……いや、元王妃である彼女は、ひらりとマントのすそをひるがえし、出口を示す。
「早くお行きなさい。……次期王妃があなたをお待ちですよ」
次いで、表情を和らげ俺に微笑む。
「ユーヤ。ご苦労様でした。あなたも、今日はゆっくり休んで」
「はい」
うなずく俺を見届け、元王妃は大広間を出て行った。
「ったく……」
腕を組んでその背中を見送るジークは、儀式中とは打って変わり、幼いいたずら盛りの少年を思わせた。
「エマは苦労しそうだな……」
「なんか言ったか?」
「……エマ、待ってるんだろ? 早く行ったほうがいいんじゃないか?」
じろりと俺をにらみ据えたジークが、直後、やば……とつぶやいた。
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