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番外編『花月夜の誓い』──ユーヤ視点──
6.儀式の晩
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ジークは何かを言いかけて、口をつぐんだ。
「そうだよな……。本気で王位を狙うなら、あの大会で体調の悪いお前相手だって、情け容赦なく剣を奮っていたっておかしくない。
それがたとえ親友であったとしても、心の底から王位に就きたかったのなら、そうしていたはずだ。
でも、俺は」
ぎりっと、奥歯をかみしめる。
「それを、しなかった……!」
いつも、そうだ。
肝心なところで一歩退いてしまう。
あと一歩を踏み出せずに……!
しばらくの沈黙ののち、ジークが言った。
「まだ、決まったわけじゃないだろ」
トン、と、胸のあたりにジークの拳がのった。
「後悔してるならさ……今からでも遅くないだろ。全力で、やってみろよ。
本気になれなかった自分を悔やむなら、これから本気を出せばいいだろ?
済んじまったことをウダウダ考えても仕方ねーし。
───やってみろよ。今までは本気でなかったなら、今度は本気でやればいい。
……王位だけじゃない、いろんな面で。きっと、やれる」
強気に言いきられ、俺は噴き出した。
「お前、俺のことなのに、やけに自信たっぷりだな」
「そりゃあ、付き合い長いからな。お前の実力は、オレが一番よく知ってる」
「それは俺のセリフだ」
俺は上半身を起こして、ジークを見た。
「特に、コッチの実力が俺より数段劣っていることとか、さ」
こつんと、頭を叩いてやる。
「っだと、このヤロー。自覚してても人に言われるとムカつくことがあるって、知らないのかっ」
「あ。自覚はあるのか」
「お前なぁっ」
怒鳴りかけ、けれどジークは笑いだし、俺もたまりかねて一緒に笑いだした。
俺たちは互いの肩を抱き、いつまでも笑っていた……。
それから俺は、今までにないくらい夢中になって王位を目指して日々励んだ。
義父はそんな俺に満足したのか、小言が少なくなった。
カミューラとは剣闘競技大会以降、まったく顔を合わせることがなくなり、それも義父の不満の解消につながっていたのだと思う。
その間に、ジークは幼なじみのエマと婚約を交わし、俺のほうもいくつか見合い話があったが、すべて断っていた。
義父は少し不機嫌になることはあったが、以前のように当てつけがましいことを口走ることはなくなった。
そうして、数ヶ月後───。
スメルムーンの王として選ばれたのは、ジーク・ファースト、ヤツだった……。
王位継承の儀式の晩、俺はジークの友人代表として城に招かれていた。
儀式にふさわしい正装をして出かけようとする俺を、義父は少し笑って見送ってくれた。
頭に白いものが混じり始めた義父は、急に老けこんだように見え、俺はやるせなさを感じつつも、行ってきますと告げた。
城へ向かう途中、暗闇のなかで人影が見えた気がして、俺は立ち止まり、目をこらした。
金髪……?
夜目でも解るそれに、俺は思いきって呼びかけた。
「カミューラ……?」
ぴくり、と人影が動き、ためらう気配を感じさせながらも、その人物はこちらに歩み寄ってくる。
「ユーヤ」
久しぶりの対面に、カミューラは少しはにかんで小首をかしげた。
「今晩は。久しぶりだね。……こんな時間に、どうしたの?」
尋ねる俺を、あの頃と変わらない真っ直ぐな眼差しのまま、カミューラが見上げる。
「あなたを……待っていたの……」
「そうだよな……。本気で王位を狙うなら、あの大会で体調の悪いお前相手だって、情け容赦なく剣を奮っていたっておかしくない。
それがたとえ親友であったとしても、心の底から王位に就きたかったのなら、そうしていたはずだ。
でも、俺は」
ぎりっと、奥歯をかみしめる。
「それを、しなかった……!」
いつも、そうだ。
肝心なところで一歩退いてしまう。
あと一歩を踏み出せずに……!
しばらくの沈黙ののち、ジークが言った。
「まだ、決まったわけじゃないだろ」
トン、と、胸のあたりにジークの拳がのった。
「後悔してるならさ……今からでも遅くないだろ。全力で、やってみろよ。
本気になれなかった自分を悔やむなら、これから本気を出せばいいだろ?
済んじまったことをウダウダ考えても仕方ねーし。
───やってみろよ。今までは本気でなかったなら、今度は本気でやればいい。
……王位だけじゃない、いろんな面で。きっと、やれる」
強気に言いきられ、俺は噴き出した。
「お前、俺のことなのに、やけに自信たっぷりだな」
「そりゃあ、付き合い長いからな。お前の実力は、オレが一番よく知ってる」
「それは俺のセリフだ」
俺は上半身を起こして、ジークを見た。
「特に、コッチの実力が俺より数段劣っていることとか、さ」
こつんと、頭を叩いてやる。
「っだと、このヤロー。自覚してても人に言われるとムカつくことがあるって、知らないのかっ」
「あ。自覚はあるのか」
「お前なぁっ」
怒鳴りかけ、けれどジークは笑いだし、俺もたまりかねて一緒に笑いだした。
俺たちは互いの肩を抱き、いつまでも笑っていた……。
それから俺は、今までにないくらい夢中になって王位を目指して日々励んだ。
義父はそんな俺に満足したのか、小言が少なくなった。
カミューラとは剣闘競技大会以降、まったく顔を合わせることがなくなり、それも義父の不満の解消につながっていたのだと思う。
その間に、ジークは幼なじみのエマと婚約を交わし、俺のほうもいくつか見合い話があったが、すべて断っていた。
義父は少し不機嫌になることはあったが、以前のように当てつけがましいことを口走ることはなくなった。
そうして、数ヶ月後───。
スメルムーンの王として選ばれたのは、ジーク・ファースト、ヤツだった……。
王位継承の儀式の晩、俺はジークの友人代表として城に招かれていた。
儀式にふさわしい正装をして出かけようとする俺を、義父は少し笑って見送ってくれた。
頭に白いものが混じり始めた義父は、急に老けこんだように見え、俺はやるせなさを感じつつも、行ってきますと告げた。
城へ向かう途中、暗闇のなかで人影が見えた気がして、俺は立ち止まり、目をこらした。
金髪……?
夜目でも解るそれに、俺は思いきって呼びかけた。
「カミューラ……?」
ぴくり、と人影が動き、ためらう気配を感じさせながらも、その人物はこちらに歩み寄ってくる。
「ユーヤ」
久しぶりの対面に、カミューラは少しはにかんで小首をかしげた。
「今晩は。久しぶりだね。……こんな時間に、どうしたの?」
尋ねる俺を、あの頃と変わらない真っ直ぐな眼差しのまま、カミューラが見上げる。
「あなたを……待っていたの……」
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