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番外編『花月夜の誓い』──ユーヤ視点──
3.文句はあとで、聞いてやる
しおりを挟む大会は、滞りなく進み、準決勝の第二試合で、ようやくジークをこの目で見ることができた。
それまでは、ちょうど彼と同じ時間に、俺の試合が重なっていたからだ。
ジークの相手は身長が2メートル以上もあり、岩山のような体格の男だった。
力で物を言わせるタイプに、ジークもパワーでは負けていなかったが、幾分、ジークの動きが鈍いようにも思えた。
変だな……。
瞬間、俺の耳から人々の歓声が、ふっと遠退いた。
───そうか、呼吸だ。
変に思えたのは、そのせいだ。
いつもの奴らしくなく、乱れきっている。
俺は、目の前で汗を散らして立ち回っているジークを見つめた。
なるほど。エマは、ジークの体調を気遣っていたんだな。
おおかた熱でも出して、エマが止めるのも聞かずに大会に出場するって、意地張って出てきたんだろう。
まぁ、奴にとって大事な試合であるには違いないけどね。
───けど、ジーク。
エマに、俺には言うなって口止めしてくれたらしいけど、俺はお前の体調の悪さを知ってしまったんだ。
覚悟しろよ。
カラーン、と、剣が向こうのほうへ転がった。
「参った……」
瞬間。
闘技場全体に、歓声と拍手が一斉に広がり、耳をふさいでしまいたくなるほどだった。
俺は立ち上がって、服に付いた砂を払った。
進行役の男が、勝利者の名を告げようとした時、
「ユーヤ……お前っ……」
ジークがのめるようにして、俺に近づいてきた。
額からは、とめどなく汗が流れ落ち、熱のためか瞳がうるんでいた。
それらを振り払う勢いで、ジークは眼の奥に、怒りをにじませた。
「お前なぁっ……」
言ったジークの手が俺の胸もとをつかみあげる。
とたん、ふっとくずれ落ちるように、ジークの身体から力が抜けた。
限界だな。……っとに、こいつは。
倒れこんできたジークを抱きとめ、俺は苦笑いを浮かべる。
それから、ジークの不審な動きにとまどった様子の進行役に、催促するような目線を送った。
あわてた素振りで進行役は、ファースト家の家紋が入った旗を上げる。
「ゆ、優勝者は、ファースト家の長男、ジーク・ファースト!!」
高らかに宣言すると、場内をぐるりと見渡した。
もちろん観客は、それに応えて、一段と大きな歓声を響かせた───。
俺はそのままジークを担いで闘技場をあとにし、ジークの家───つまり、スメルムーン城へと彼を運んだ。
闘技場から一緒に付いて来たエマが、ジークを気づかうように俺と共に城内へ入る。
「……っ、か、や……ろう……!」
ジークの居室で奴をベッドに寝かしつけると、それを待っていたかのようにジークの口からそんなうめき声がもれた。
枕元にいるエマが、驚いたように俺を見た。
「何で……?」
うわごとの訳を尋ねられ、俺は笑い返す。
「ジークが起きたら、言ってやってくれ。
───文句は熱が下がってから聞いてやる、ってね」
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