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番外編『夜光華の回想』──エマ視点──

6.いつかまた、違う世界で

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「まだ“みそぎ”を済ませてないから、扱うことは無理でも預かってもらうことは、できるだろ」

スメルムーンでは、いつでも剣などの武器を手の内に現すことができるよう、自分の気に入った武器と自らをつなぐ“禊ぎ”を行う。

ジークが私に寄越したのは、その“禊ぎ”前の……今夜、自らを王にふさわしいと、証明し手に入れたばかりの───“スメルムーンの剣”だった。

「預かるって……そんな……!」

「預かってくれよ。
───いつか、こいつが扱える奴が現れるまで」

言ってジークは、力を失ったように寝転んだ。

「ジーク!?」

あわててのぞきこむと、苦笑いが返ってきた。

「そんな顔するなよ。まだ、大丈夫だから。なんかちょっと……眠くなってきただけだよ。

───オレ、死んだらコイツに乗り移って、エマが幸せになるまで見守っていてやるよ。

だから、コイツが扱える奴、探してくれよ。そいつがきっと、オレの分まで、エマを幸せにしてくれる」

強気な微笑を浮かべるジークに、私はとにかくうなずいた。
奥歯をグッとかみしめて。

最後の最後まで、私の行く末を案じてくれるジークの優しさを、無にしたくなかったから。

───だから言えなかった。

そんな、いつ現れるか分からない人なんかよりも、今ここにいるあなたに、ずっと側にいて欲しいだなんて。

「変だな……エマ。眠いんだ、オレ。すごく眠い」

だんだんとジークのまぶたが、重さを増していくのが、分かる。

このまま瞳が完全に閉じられたら、ジークは、手の届かない人になってしまう。

だけど、ジークをつなぎ止める手段がない。

「エマ……また、どこかで……逢えるといいな……」

声が、遠のいていく。

「ジーク……?」

問いかけても、まぶたひとつ動かない。

「ジーク!」

さらさらと、ジークは次第に姿を粒子に変えて、ちりとなり果て宙に浮かび、“スメルムーンの剣”の上に落ちていく。

約束通りに、きっとジークは“スメルムーンの剣”に乗り移ったに違いない。

私は、声にならない声で剣を抱きしめながら、彼の名を呼んだ。

それから、明け方まで。
気が狂うほど、泣き叫んでいた───。



       †



ひとすじの風が夜光華ルーナ・アイを揺らし、そして、私の髪をすくい上げ、通り抜けていく。

思い返して、思い返してみても、決して元には戻らない日々を、理解できるようになったのは、いつだったのだろう?

───ジーク。

あの人の残した最後の言葉。

『また、どこかで……逢えるといいな……』

終わらない未来に希望を託し、私たちは、いつかまた違う世界で、ふたたび出逢える日がくるのかもしれない───。





     【夜光華の回想・終】



※最後に、次ページよりユーヤ視点の『花月夜の誓い』が入ります。
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