67 / 79
番外編『夜光華の回想』──エマ視点──
6.いつかまた、違う世界で
しおりを挟む
「まだ“禊ぎ”を済ませてないから、扱うことは無理でも預かってもらうことは、できるだろ」
スメルムーンでは、いつでも剣などの武器を手の内に現すことができるよう、自分の気に入った武器と自らをつなぐ“禊ぎ”を行う。
ジークが私に寄越したのは、その“禊ぎ”前の……今夜、自らを王にふさわしいと、証明し手に入れたばかりの───“スメルムーンの剣”だった。
「預かるって……そんな……!」
「預かってくれよ。
───いつか、こいつが扱える奴が現れるまで」
言ってジークは、力を失ったように寝転んだ。
「ジーク!?」
あわててのぞきこむと、苦笑いが返ってきた。
「そんな顔するなよ。まだ、大丈夫だから。なんかちょっと……眠くなってきただけだよ。
───オレ、死んだらコイツに乗り移って、エマが幸せになるまで見守っていてやるよ。
だから、コイツが扱える奴、探してくれよ。そいつがきっと、オレの分まで、エマを幸せにしてくれる」
強気な微笑を浮かべるジークに、私はとにかくうなずいた。
奥歯をグッとかみしめて。
最後の最後まで、私の行く末を案じてくれるジークの優しさを、無にしたくなかったから。
───だから言えなかった。
そんな、いつ現れるか分からない人なんかよりも、今ここにいるあなたに、ずっと側にいて欲しいだなんて。
「変だな……エマ。眠いんだ、オレ。すごく眠い」
だんだんとジークのまぶたが、重さを増していくのが、分かる。
このまま瞳が完全に閉じられたら、ジークは、手の届かない人になってしまう。
だけど、ジークをつなぎ止める手段がない。
「エマ……また、どこかで……逢えるといいな……」
声が、遠のいていく。
「ジーク……?」
問いかけても、まぶたひとつ動かない。
「ジーク!」
さらさらと、ジークは次第に姿を粒子に変えて、塵となり果て宙に浮かび、“スメルムーンの剣”の上に落ちていく。
約束通りに、きっとジークは“スメルムーンの剣”に乗り移ったに違いない。
私は、声にならない声で剣を抱きしめながら、彼の名を呼んだ。
それから、明け方まで。
気が狂うほど、泣き叫んでいた───。
†
ひとすじの風が夜光華を揺らし、そして、私の髪をすくい上げ、通り抜けていく。
思い返して、思い返してみても、決して元には戻らない日々を、理解できるようになったのは、いつだったのだろう?
───ジーク。
あの人の残した最後の言葉。
『また、どこかで……逢えるといいな……』
終わらない未来に希望を託し、私たちは、いつかまた違う世界で、ふたたび出逢える日がくるのかもしれない───。
【夜光華の回想・終】
※最後に、次ページよりユーヤ視点の『花月夜の誓い』が入ります。
スメルムーンでは、いつでも剣などの武器を手の内に現すことができるよう、自分の気に入った武器と自らをつなぐ“禊ぎ”を行う。
ジークが私に寄越したのは、その“禊ぎ”前の……今夜、自らを王にふさわしいと、証明し手に入れたばかりの───“スメルムーンの剣”だった。
「預かるって……そんな……!」
「預かってくれよ。
───いつか、こいつが扱える奴が現れるまで」
言ってジークは、力を失ったように寝転んだ。
「ジーク!?」
あわててのぞきこむと、苦笑いが返ってきた。
「そんな顔するなよ。まだ、大丈夫だから。なんかちょっと……眠くなってきただけだよ。
───オレ、死んだらコイツに乗り移って、エマが幸せになるまで見守っていてやるよ。
だから、コイツが扱える奴、探してくれよ。そいつがきっと、オレの分まで、エマを幸せにしてくれる」
強気な微笑を浮かべるジークに、私はとにかくうなずいた。
奥歯をグッとかみしめて。
最後の最後まで、私の行く末を案じてくれるジークの優しさを、無にしたくなかったから。
───だから言えなかった。
そんな、いつ現れるか分からない人なんかよりも、今ここにいるあなたに、ずっと側にいて欲しいだなんて。
「変だな……エマ。眠いんだ、オレ。すごく眠い」
だんだんとジークのまぶたが、重さを増していくのが、分かる。
このまま瞳が完全に閉じられたら、ジークは、手の届かない人になってしまう。
だけど、ジークをつなぎ止める手段がない。
「エマ……また、どこかで……逢えるといいな……」
声が、遠のいていく。
「ジーク……?」
問いかけても、まぶたひとつ動かない。
「ジーク!」
さらさらと、ジークは次第に姿を粒子に変えて、塵となり果て宙に浮かび、“スメルムーンの剣”の上に落ちていく。
約束通りに、きっとジークは“スメルムーンの剣”に乗り移ったに違いない。
私は、声にならない声で剣を抱きしめながら、彼の名を呼んだ。
それから、明け方まで。
気が狂うほど、泣き叫んでいた───。
†
ひとすじの風が夜光華を揺らし、そして、私の髪をすくい上げ、通り抜けていく。
思い返して、思い返してみても、決して元には戻らない日々を、理解できるようになったのは、いつだったのだろう?
───ジーク。
あの人の残した最後の言葉。
『また、どこかで……逢えるといいな……』
終わらない未来に希望を託し、私たちは、いつかまた違う世界で、ふたたび出逢える日がくるのかもしれない───。
【夜光華の回想・終】
※最後に、次ページよりユーヤ視点の『花月夜の誓い』が入ります。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる