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番外編『夜光華の回想』──エマ視点──
2.男同士の祝杯
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サァーッ……と、風が通り抜けていく。
舞い上がる髪を片手で押さえ、スメルムーン城を仰ぎ見た。
城に集っていた人々のざわめきが、少しずつ遠ざかっていくのが分かった。
儀式の立会人たちが、ようやく帰りの途につき始めているのだろう。
ルーナ・アイが風に揺れながら輝くなかへ、腰を下ろした。
やっぱり、ブーケはルーナ・アイで作るべきよね。
───そして、ベールは“夢天女の涙”から。
幸せの象徴と、絶対的な祝福を。
ふたつの力が、きっときっと、私たちの行く末を、幸福なものにしてくれるに違いない。
そう思うと、自然と笑みがこぼれた。
「エマ」
いきなり声をかけられて、びっくりして顔を上げる。
花畑の小道を抜けて、正装姿のままのジークが近寄ってくるのが、目に入った。
「なに一人でニヤけてるんだよ。コワイぞ」
「失礼ね!」
ジークの言葉にムッとしながら立ち上がると、彼と一緒に、やはり正装したユーヤがいるのにも気づいた。
ユーヤは、ジークの無二の親友で、実は、ジークよりも王位に近かった存在。
頭もいいし、腕も立つしね。
「挙式を控えた花嫁が、幸せにひたるのは当然だろ? お前って、ホント素直じゃないよな」
「そうよねぇ?」
ジークの肩を抱いて、からかい半分でいましめるユーヤに、相づちをうつ。
今度は、ジークがムッとする番だった。
そんなジークを尻目に、ユーヤが言った。
「エマ、悪いけど、先にジークを貸して欲しいんだ。軽く祝杯をあげたいから」
「いいわよ」
特に反対する理由もなく即座にうなずくと、二人は軽口をたたきながら、仲良く城へと戻って行った。
もう、妬けるくらい、仲がいいんだから。
二人の背中を見送りながら、私は思わず、そうつぶやいていた。
周囲に広がるルーナ・アイは、いっそう深く輝いていた……。
それにしても……。
ちらり、と、肩ごしにスメルムーン城を振り返る。
遅いわね。
「軽く祝杯をあげる」だなんていう、ユーヤの言葉をそっくり信じちゃったけど……。
とっくに「軽く」なんて時は、過ぎてるわ。
半ばあきれながら、ふと、自分も仲間に加わってしまえばいいのだと、思い立つ。
男同士で呑みたかったりするのかな、なんて、変な気を回して損したわ。
すっかり痛くなってしまった腰を上げて、ジークの部屋へ向かう。
途中、出会った衛士に、一瞬だけ見とがめられたけど、ジークが話を通してくれてあったみたいで、すぐに丁重に城の深部まで送り届けられた。
「この先は、私どもには入れませんので、足元にお気をつけて」
という衛士にお礼を言って、最上階にあるジークの部屋へ足を運ぶ。
近づくにつれ、私はちょっと、いたずら心を起こしていた。
ふふっ、おどかしてやろっと。
忍び足で、ドアに寄って行く。
意外にも室内の様子は静かで、時折、笑い声がするくらいだった。
ドアに耳をつけると、二人の話し声が、はっきりと聞こえてくる。
「……俺さ、ショックだったよ」
少し沈んでいるようにも聞こえる、ユーヤの声。
「もちろん、前々から分かっていたけどさ───お前たちのこと」
カタン、と、椅子から立ち上がるような音がした。
「ずっと……気持ちは変えられなかった」
───え?
「だから本当は、許せないんだ。二人が、結婚するだなんて」
「……ユーヤ、お前───」
ジークが息をのむような気配がした。
ちょっと待って。
気持ちは変えられなかった、って……どういうこと!?
許せない……って……?
「エマは……俺の気持ちに、気づいていないだろうな」
「あぁ」
低く、ジークがうなずく。
「お前が、まさかオレのことをそこまで」
いったん、言葉をきって、深々とジークは息をついた。
「───好きだったなんて、さ……」
や、やっぱりっ……!
思わず叫び声をあげそうになって、私は片手で口もとを覆った。
舞い上がる髪を片手で押さえ、スメルムーン城を仰ぎ見た。
城に集っていた人々のざわめきが、少しずつ遠ざかっていくのが分かった。
儀式の立会人たちが、ようやく帰りの途につき始めているのだろう。
ルーナ・アイが風に揺れながら輝くなかへ、腰を下ろした。
やっぱり、ブーケはルーナ・アイで作るべきよね。
───そして、ベールは“夢天女の涙”から。
幸せの象徴と、絶対的な祝福を。
ふたつの力が、きっときっと、私たちの行く末を、幸福なものにしてくれるに違いない。
そう思うと、自然と笑みがこぼれた。
「エマ」
いきなり声をかけられて、びっくりして顔を上げる。
花畑の小道を抜けて、正装姿のままのジークが近寄ってくるのが、目に入った。
「なに一人でニヤけてるんだよ。コワイぞ」
「失礼ね!」
ジークの言葉にムッとしながら立ち上がると、彼と一緒に、やはり正装したユーヤがいるのにも気づいた。
ユーヤは、ジークの無二の親友で、実は、ジークよりも王位に近かった存在。
頭もいいし、腕も立つしね。
「挙式を控えた花嫁が、幸せにひたるのは当然だろ? お前って、ホント素直じゃないよな」
「そうよねぇ?」
ジークの肩を抱いて、からかい半分でいましめるユーヤに、相づちをうつ。
今度は、ジークがムッとする番だった。
そんなジークを尻目に、ユーヤが言った。
「エマ、悪いけど、先にジークを貸して欲しいんだ。軽く祝杯をあげたいから」
「いいわよ」
特に反対する理由もなく即座にうなずくと、二人は軽口をたたきながら、仲良く城へと戻って行った。
もう、妬けるくらい、仲がいいんだから。
二人の背中を見送りながら、私は思わず、そうつぶやいていた。
周囲に広がるルーナ・アイは、いっそう深く輝いていた……。
それにしても……。
ちらり、と、肩ごしにスメルムーン城を振り返る。
遅いわね。
「軽く祝杯をあげる」だなんていう、ユーヤの言葉をそっくり信じちゃったけど……。
とっくに「軽く」なんて時は、過ぎてるわ。
半ばあきれながら、ふと、自分も仲間に加わってしまえばいいのだと、思い立つ。
男同士で呑みたかったりするのかな、なんて、変な気を回して損したわ。
すっかり痛くなってしまった腰を上げて、ジークの部屋へ向かう。
途中、出会った衛士に、一瞬だけ見とがめられたけど、ジークが話を通してくれてあったみたいで、すぐに丁重に城の深部まで送り届けられた。
「この先は、私どもには入れませんので、足元にお気をつけて」
という衛士にお礼を言って、最上階にあるジークの部屋へ足を運ぶ。
近づくにつれ、私はちょっと、いたずら心を起こしていた。
ふふっ、おどかしてやろっと。
忍び足で、ドアに寄って行く。
意外にも室内の様子は静かで、時折、笑い声がするくらいだった。
ドアに耳をつけると、二人の話し声が、はっきりと聞こえてくる。
「……俺さ、ショックだったよ」
少し沈んでいるようにも聞こえる、ユーヤの声。
「もちろん、前々から分かっていたけどさ───お前たちのこと」
カタン、と、椅子から立ち上がるような音がした。
「ずっと……気持ちは変えられなかった」
───え?
「だから本当は、許せないんだ。二人が、結婚するだなんて」
「……ユーヤ、お前───」
ジークが息をのむような気配がした。
ちょっと待って。
気持ちは変えられなかった、って……どういうこと!?
許せない……って……?
「エマは……俺の気持ちに、気づいていないだろうな」
「あぁ」
低く、ジークがうなずく。
「お前が、まさかオレのことをそこまで」
いったん、言葉をきって、深々とジークは息をついた。
「───好きだったなんて、さ……」
や、やっぱりっ……!
思わず叫び声をあげそうになって、私は片手で口もとを覆った。
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