56 / 79
番外編『夢天女の涙』──ジーク視点──
3.オレ以外はみんな、分かるらしい
しおりを挟むその晩、気になってろくに睡眠もとれなかったオレは、翌朝、無二の親友であるユーヤ・ド・ダラスの家を訪ねた。
「ふうん。10年前の約束、ね」
オレがエマとの約束について、何か心あたりがないかと問うと、意外にもユーヤは意味ありげに笑った。
「なにか知っているのか!?」
意気込んで詰め寄ると、ユーヤは、ふっ……と笑った。
「知ってるわけじゃないけど、見当はつく」
「それ、教えろよ!」
「俺から教えるよりも、お前が自分で思いだしたほうがいい」
思わずオレは、グシャグシャと髪に片手を突っ込んだ。
「だから自分で考えて、分かんなかったから、お前に訊いてるんだよ!」
「……考えるんじゃなくて、思いだせよ」
からかうように、ユーヤがオレを見る。
ふう、と、息をついた。
「……仕方ないな。ヒントをやろう。キーワードは、夢天女だ」
少し声を落として言う。
「ゆめ……天女?」
なんだ、それは。
「そう。そこから連想するものは……ないか?」
「ない!」
きっぱり答えると、ユーヤはわざとらしく肩をすくめた。
「じゃ、ダメだね」
斬り捨てるように言われて、反射的に語調を荒らげた。
「お前っ、それが困ってる親友に対しての、誠意ある言葉かっ!?」
おいおい……と、子供をたしなめるようにユーヤは皮肉げに笑った。
「親友だなんて、こんなときばかり振りかざすなよ。
───とにかく、お前自身が思いださない限り、なんの意味もないことなんだからさ。
これは、そういう類いの問題だってことだよ」
しぶしぶユーヤの家を退散したものの、オレの頭からエマの言葉が離れることはなかった。
おまけに。
ユーヤのばかやろーのせいで、新たな疑問が増えちまったし。
オレは釈然としない気分を持て余し、このイライラモヤモヤする胸のうちを、誰かにぶちまけたくて仕方なかった。
そんな時、ばったり道端でオレと出くわしてしまった不運な男が、ギルバート・スミス、奴だった。
フルートの名手として知られるギルは、オレとは真逆のタイプだ。
剣の腕はまぁまぁだが、頭のいい、温厚な良識人で、老若男女問わず好かれる男だった。
「やぁ、ジーク。元気かい?」
人懐っこい笑みを浮かべて声をかけてきたのは、他の誰でもない、ギルのほうだ。
オレは今までの鬱憤を晴らすべくして口をひらきかけたけど、ふと、待てよと思い直した。
ここで気分に任せて《がなる》よりも、気になっていた疑問を口にするほうが賢明なことに気づく。
「ギルバート……訊きたいことがあるんだ」
知らず知らずのうちに深刻な表情になっていたらしく、ギルはちょっと笑ってオレの肩を抱き、うながした。
「難しいことは、ごめんだよ。
僕に分かる程度のことならね、答えよう」
オレは探るように口を開いた。
「───夢天女って……知ってるか?」
「一応ね。詳しいことは、よく知らないけど」
手応えのある返事に、オレはエマとの約束のことや、ユーヤの言葉などを逐一もらさずに話して聞かせた。
「なるほど、それで、夢天女なのか」
どうやらギルにも、察しがついたようだった。
オレだけ分かんないって、やっぱオレってバ……いやいや、分からなきゃ、聞けばいい話だもんな。
そう思って、素直にギルから説明を受ける気満々になっていたオレに、
「じゃあ僕からも、ヒントを出そう。
───夢天女の涙、だ」
なんて、肩透かしな言葉が返ってきた。おい!
「また夢天女かよ!?」
「そうさ」
うなずいて、ギルは意味ありげに笑った。
ユーヤと同じような反応に、お前もかっ、と、怒鳴りつけたくなる。
「夢天女の涙とは、どんなものか。
それが分かれば、自然とエマとの約束も分かるはずだけど……。
そうだね。ユーヤの言う通り、これは君自身が思いださなければ、確かに意味のないことなのかもしれないな。
……何より、エマにとっても、ね」
つけ加えられたひとことに、唇をかんだ。
夢天女の涙、か……。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。
木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。
その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。
本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。
リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。
しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。
なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。
竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる