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エピローグ
3.帰り道、オレはまた、猫を拾う。
しおりを挟む翌日。
オレは、いつも直哉が通る帰り道で、あいつを待ち伏せた。
とにかく、謝っちまおうって、そう思った。
直哉はオレの存在を認めると、少し離れた位置で自転車を止め、ちょっと目を見開いた。
「ごめん、直哉。
お前のこと……解ってやれなくて」
思いきって言うと、直哉はそんなオレを数秒、見つめていた。
そして、ふたたび自転車をこぎ、オレの脇を通り過ぎようとした。
「ばーか……」
通り過ぎざま、直哉はオレの肩にひじをのせ、からかうように小さく言った。
その声は明らかに、いつもの直哉のものだった。
オレは苦笑いして、その背中をひじで小突いた。
「バカって言ったな。
じゃ、もう数学のノート、貸してやんねー」
「……お前、切り札のように数学のノートって、口にすんなよ……」
そんな他愛もない会話を交わしていると、雨が降ってきた。
「おい、直哉。傘持ってきてるか?」
「ねーよ。お前は?」
「親父には持たせた!」
胸を張って答えると、直哉は頬をひきつらせた。
「意味ねーだろ、それ……」
直哉と二人、自転車を走らせる。
家に向かう、その道で、オレがティアを拾った空き地の側を通りかかった。
ゴミ捨て場に、白い猫がいそうな気がして───。
けれどもそこにあったのは、壊れた冷蔵庫やソファーなどの、粗大ゴミだけだった。
「朝倉、どうしたんだよ?」
いきなり自転車のブレーキをかけたオレを、直哉が少し先で振り返る。
あわててオレは、その場を離れかけた。
走りだそうとした瞬間、仔猫のような、か細い鳴き声が聞こえた。
え……?
目をこらすと、ソファーの陰からおぼつかない足取りで歩く、目も開いてないような仔猫が現れた。
白と黒の、まだら模様の猫。
オレは思わず、その猫を抱き上げた。
手のひらに収まるほどの、やわらかであたたかな生き物は、可哀そうなくらい小刻みに震えていた。
まだ、生まれて間もなさそうだな……。
「猫か?」
直哉が近寄ってきて、オレの手のなかを、のぞきこむように見た。
「お前、猫になんて、興味あったっけ?」
不思議そうに尋ねる直哉に、オレはちょっと笑って答えた。
「ん、まぁね。
お前と口きかない間に、いろいろと心境の変化があったんだよ、オレも」
そう。
こんな雨の日は、特に───。
《おわり》
※このあと、番外編に続きます。
よろしければ、お付き合いくださいませ。
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