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第四章 真実の行方
11.今度は間違えずに
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無言のまま、エマはカミューラから退き、それから───。
「エマ……?」
彼女はオレの胸に額を寄せ、オレのタンクトップをぎゅっとつかんだ。
肩が小刻みに震えて、時々、小さな嗚咽が聞こえた。
泣いて……。
オレはあわててカミューラを見る。ゆっくりと彼女は、上半身を起こした……。
エマの剣は、カミューラのちょうど首があったあたりの、少しずれた位置に刺さっていた。
エマ……。
そうだよな。
殺せるわけ、ないよな。
エマは、カミューラがユーヤをどれだけ好きでいたか、知ってしまったのだから。
エマがジークに寄せた想いも、カミューラがユーヤに寄せた想いも、みんな、真実なのだから。
「殺せなかった……」
吐息と共に、エマがつぶやく。
「うん……」
「おれには、できなかった……」
「うん」
オレはただ、うなずいて。
エマの背に腕をまわして、彼女が落ち着くのを待った。
ふとオレは、カミューラに目をやった。
その時、彼女はエマの剣を引き抜き、その切っ先を自分の首に刺した───。
「カミュ……」
からん、と、むなしい音を立て、エマの剣は地面へと転がった。
森の木々が、ざわめく。
カミューラの遺体は残らず、彼女は塵と化し、その時に吹いた風と共に《カミューラ》は、どこへともなく消え去っていった……。
オレもエマも、数十分、消えてしまったカミューラのいた辺りを、見つめていた。
その間も、エマは興奮がおさまらないように嗚咽を繰り返していたが、やがて、おもむろに口を開いた。
「カミューラを死なせたのは……おれ達なのか?」
「違うよ」
オレは首を振った。
「彼女は、自分の行いの罪深さを知ったんだ……」
でも───。
それに気づかせてしまったのは、オレなんだ……。
森の外に向かって、エマと二人、歩き始めた。
森の奥深くまで進んでなかったためか、オレとエマは、すんなりと森の外に向かうことができた。
「エマさん!」
明るい陽差しのもとに出る直前、セラが木々の向こうから呼ぶ声がした。
「セラ……」
呆然とするオレとエマに、合流したギルがしてくれた話によると。
セラは、オレと入れ違いに森から出て来たらしい。
オレ達をおびき寄せる、おとりだったんだろうな。
まだくすぶっているスメルムーン城を遠目に、ぽつりとセラが言った。
「お城、壊れちゃったね、エマさん……」
寂しさがもろに表れた横顔。
異世界からやってきたオレが、軽々しく口にできることは何もなく……何も言えずに黙ってセラを見ていた。
呼びかけられたエマは、セラの肩に手を置き、自分に言い聞かせるように口を開いた。
「また、造ろう。そして、この国をふたたび建て直そう。
昔のように富んだ国にするには、少し時間がかかるだろうが……。
───多分、それがジークの願いだ」
「お兄ちゃんの?」
セラが、すがるようにエマを見上げた。
「エマ」
思わず声をかけると、エマが続きを待つようにオレを振り返った。
「エマがさ、ティアを追いかけていたのは、ジークが果たせなかったことを引き継ぐために、ティアに力を借りたかったんだろ?
だけど───」
ティアは、もういない。
ユーヤも。
……カミューラも。
エマを手伝うつもりが、オレにできたのは、彼らの死に際に立ち会うだけで、ただ、エマと行動を共にすることだけだった。
「───そうだな」
オレの言いたいことを、オレ以上に解っているような、優しくて哀しい瞳をしたエマが、うなずく。
「ジークが途中で投げださねばならなかったことを、おれの手で、成し遂げたかった。
おそらくユーヤも、同じ想いだったんだろうな……」
そう言うと、エマは小さく微笑んで、空を見上げた。
「だが、方法や道筋を……おれ達は、大きく間違えてしまった。
───今度は間違えずに、やり遂げようと、思う」
青空を、少し早いスピードで、雲が流れていった。
「エマ……?」
彼女はオレの胸に額を寄せ、オレのタンクトップをぎゅっとつかんだ。
肩が小刻みに震えて、時々、小さな嗚咽が聞こえた。
泣いて……。
オレはあわててカミューラを見る。ゆっくりと彼女は、上半身を起こした……。
エマの剣は、カミューラのちょうど首があったあたりの、少しずれた位置に刺さっていた。
エマ……。
そうだよな。
殺せるわけ、ないよな。
エマは、カミューラがユーヤをどれだけ好きでいたか、知ってしまったのだから。
エマがジークに寄せた想いも、カミューラがユーヤに寄せた想いも、みんな、真実なのだから。
「殺せなかった……」
吐息と共に、エマがつぶやく。
「うん……」
「おれには、できなかった……」
「うん」
オレはただ、うなずいて。
エマの背に腕をまわして、彼女が落ち着くのを待った。
ふとオレは、カミューラに目をやった。
その時、彼女はエマの剣を引き抜き、その切っ先を自分の首に刺した───。
「カミュ……」
からん、と、むなしい音を立て、エマの剣は地面へと転がった。
森の木々が、ざわめく。
カミューラの遺体は残らず、彼女は塵と化し、その時に吹いた風と共に《カミューラ》は、どこへともなく消え去っていった……。
オレもエマも、数十分、消えてしまったカミューラのいた辺りを、見つめていた。
その間も、エマは興奮がおさまらないように嗚咽を繰り返していたが、やがて、おもむろに口を開いた。
「カミューラを死なせたのは……おれ達なのか?」
「違うよ」
オレは首を振った。
「彼女は、自分の行いの罪深さを知ったんだ……」
でも───。
それに気づかせてしまったのは、オレなんだ……。
森の外に向かって、エマと二人、歩き始めた。
森の奥深くまで進んでなかったためか、オレとエマは、すんなりと森の外に向かうことができた。
「エマさん!」
明るい陽差しのもとに出る直前、セラが木々の向こうから呼ぶ声がした。
「セラ……」
呆然とするオレとエマに、合流したギルがしてくれた話によると。
セラは、オレと入れ違いに森から出て来たらしい。
オレ達をおびき寄せる、おとりだったんだろうな。
まだくすぶっているスメルムーン城を遠目に、ぽつりとセラが言った。
「お城、壊れちゃったね、エマさん……」
寂しさがもろに表れた横顔。
異世界からやってきたオレが、軽々しく口にできることは何もなく……何も言えずに黙ってセラを見ていた。
呼びかけられたエマは、セラの肩に手を置き、自分に言い聞かせるように口を開いた。
「また、造ろう。そして、この国をふたたび建て直そう。
昔のように富んだ国にするには、少し時間がかかるだろうが……。
───多分、それがジークの願いだ」
「お兄ちゃんの?」
セラが、すがるようにエマを見上げた。
「エマ」
思わず声をかけると、エマが続きを待つようにオレを振り返った。
「エマがさ、ティアを追いかけていたのは、ジークが果たせなかったことを引き継ぐために、ティアに力を借りたかったんだろ?
だけど───」
ティアは、もういない。
ユーヤも。
……カミューラも。
エマを手伝うつもりが、オレにできたのは、彼らの死に際に立ち会うだけで、ただ、エマと行動を共にすることだけだった。
「───そうだな」
オレの言いたいことを、オレ以上に解っているような、優しくて哀しい瞳をしたエマが、うなずく。
「ジークが途中で投げださねばならなかったことを、おれの手で、成し遂げたかった。
おそらくユーヤも、同じ想いだったんだろうな……」
そう言うと、エマは小さく微笑んで、空を見上げた。
「だが、方法や道筋を……おれ達は、大きく間違えてしまった。
───今度は間違えずに、やり遂げようと、思う」
青空を、少し早いスピードで、雲が流れていった。
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