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第四章 真実の行方
9.カミューラの告白
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「どういう、ことだよ?」
「新しいパートナーが欲しいの」
「パートナーって……」
同じ言葉を繰り返すオレに、カミューラはくすくすと笑ってみせた。
「スメルムーンの王になれるような、器が欲しいのよ。分かって?」
「───ユーヤが居なくなったからかよ!」
立ち上がって、カミューラの胸もとをつかみ上げる。
本当は、女相手に、しかもこんな美女に、手を出すつもりはなかったけど、腹が立って仕方なかった。
ユーヤが死んだからって、すぐあとに、別の奴と組もうとするなんて!
「そういう考え方って、すっげー打算的で、オレは吐き気がするよ」
至近距離からカミューラを強く見据えて、低く言い放つ。
パシンッ、と。
彼女はオレの手を払いのけ、一歩あとずさった。
「吐き気がする? そう……そうなの。
───でもね、私は」
指を上げて、ふたたびカミューラは、宙に何か描いた。
そして、そのままスッ……と、細くしなやかな指を真っすぐにオレに向けてくる。
とたん、体の自由が急に利かなくなった。
「なに……」
なにしたんだよ、と言うつもりが、口まできけない状態になる。
カミューラの顔には、うっすらとした笑みが浮かんでいた。
「……ユーヤが、あんな死に方を選んだことのほうが、吐き気がするわ」
口もとから笑みを消し、カミューラは冷たい眼差しをオレに向けた。
「スメルムーン城が燃え盛るのを見たとき、全身が凍りついたわ。
自分の居場所が分からなくなるくらい、めまいがしたわ。
……ユーヤを失いたくなかった。
私はね、ユーヤが好きだったのよ。小さい頃から、ずっとね……!」
冷ややかな瞳に、憎悪をにじませ、カミューラはオレを見ていた。
「魔女の子───それだけで、私は小さい頃から仲間外れにされていたわ。
子供だけでなく、大人からも恐れられ、疎まれていたわ。
何も変わらないのに……私は、普通の女の子と同じなのにね。
ただちょっとだけ、他の子供たちと、違う能力をもって生まれただけ。それだけよ。
そんななかで……ユーヤだけが、私を他の子に接するのと同じように、接してくれた。
私がどんなに嬉しかったか、解る?
彼だけが、私を解ってくれた。ユーヤのためなら、なんでもできた……。
先代王、デューク・ファーストが死んだとき、チャンスだと思ったわ。
ユーヤは、知力腕力に優れていたから、王に推すには申し分なかったの。
ただ、ダラス家の“スメルムーンの涙”が、ファースト家に劣っているのを抜かしてはね。
……なのに」
そこで言葉を区切り、わずかに目を細める。
「皆が選んだのは、ジーク・ファーストだった。
ジークは難なく玉座に就いたわ。ユーヤはそれを、祝福したわ、心からね。
───ジークにあって、ユーヤになかったもの……それは、野心よ。
こんな馬鹿な話ってある?
本当に王にふさわしかったのは、ユーヤよ。ジークなんかじゃなかったわ!」
カミューラが語調を強めた瞬間、
「だからっ……、ジークを、殺したのかっ……!!」
叩きつけられた木にもたれるようにして、エマは体を起こし、カミューラをにらみすえていた。
「それだけで、ジークを殺したというのか!?」
「そうよ! ジークが邪魔だったのよ。
憎かった、なんの苦労もしないで王になったジークがね!
ユーヤを出し抜いて、王になったジークがね!
だから、儀式の立ち会いに行くというユーヤに、スラントの毒を混ぜたワインを持たせたの。
ジークへのお祝いよって」
「ふざけるなっ……!」
エマが怒鳴って、息を荒くし、木に寄りかかったまま立ち上がる。
「お前は……ユーヤさえよければ、それでいいのか?
他の人間は、どうなっても、いいというのかっ!?」
「えぇ、そうよ。私が大事なのは、ユーヤだけ。
……第一、他の人が私に何をしてくれたっていうの? 何もしてくれてないじゃないの。
それどころか、私をただ疎ましげな目で見て、無言で追い払うような真似をしただけ。
そんな人たちの、いったい何を考えてやれっていうの?」
エマの非難に、事もなげにカミューラは答える。
「だからね」
言って、カミューラは片腕を上げた。
彼女のいる側の木の枝がしない、カミューラの目の前に下りる。
彼女はそこから、葉を一枚、取った。唇に、押しあてる。
「ユーヤを死に追いやったあなた達が、私は、赦せないのよ!」
シュッと、手にした木の葉を、エマに向かって投げ飛ばす。
瞬間、あたりの木々がギシギシときしめき始め、枝についた無数の葉が、まるで矢のようにエマを襲った。
エマ……!
横目で見ていたオレは、なんとかこの束縛から逃れたいと、思った。
「何か言いたげね、聞いてあげるわ」
パチン、と、カミューラが指を鳴らす。
いままでオレの体を縛っていた目には見えない力が、ふっと消え去った。
ひざが笑って、それまでの反動から、オレはその場にくずれ落ちる。
脱力感におそわれ、呼吸するのもやっとだった。
けれども、なんとかカミューラに向かって口を開く。
「新しいパートナーが欲しいの」
「パートナーって……」
同じ言葉を繰り返すオレに、カミューラはくすくすと笑ってみせた。
「スメルムーンの王になれるような、器が欲しいのよ。分かって?」
「───ユーヤが居なくなったからかよ!」
立ち上がって、カミューラの胸もとをつかみ上げる。
本当は、女相手に、しかもこんな美女に、手を出すつもりはなかったけど、腹が立って仕方なかった。
ユーヤが死んだからって、すぐあとに、別の奴と組もうとするなんて!
「そういう考え方って、すっげー打算的で、オレは吐き気がするよ」
至近距離からカミューラを強く見据えて、低く言い放つ。
パシンッ、と。
彼女はオレの手を払いのけ、一歩あとずさった。
「吐き気がする? そう……そうなの。
───でもね、私は」
指を上げて、ふたたびカミューラは、宙に何か描いた。
そして、そのままスッ……と、細くしなやかな指を真っすぐにオレに向けてくる。
とたん、体の自由が急に利かなくなった。
「なに……」
なにしたんだよ、と言うつもりが、口まできけない状態になる。
カミューラの顔には、うっすらとした笑みが浮かんでいた。
「……ユーヤが、あんな死に方を選んだことのほうが、吐き気がするわ」
口もとから笑みを消し、カミューラは冷たい眼差しをオレに向けた。
「スメルムーン城が燃え盛るのを見たとき、全身が凍りついたわ。
自分の居場所が分からなくなるくらい、めまいがしたわ。
……ユーヤを失いたくなかった。
私はね、ユーヤが好きだったのよ。小さい頃から、ずっとね……!」
冷ややかな瞳に、憎悪をにじませ、カミューラはオレを見ていた。
「魔女の子───それだけで、私は小さい頃から仲間外れにされていたわ。
子供だけでなく、大人からも恐れられ、疎まれていたわ。
何も変わらないのに……私は、普通の女の子と同じなのにね。
ただちょっとだけ、他の子供たちと、違う能力をもって生まれただけ。それだけよ。
そんななかで……ユーヤだけが、私を他の子に接するのと同じように、接してくれた。
私がどんなに嬉しかったか、解る?
彼だけが、私を解ってくれた。ユーヤのためなら、なんでもできた……。
先代王、デューク・ファーストが死んだとき、チャンスだと思ったわ。
ユーヤは、知力腕力に優れていたから、王に推すには申し分なかったの。
ただ、ダラス家の“スメルムーンの涙”が、ファースト家に劣っているのを抜かしてはね。
……なのに」
そこで言葉を区切り、わずかに目を細める。
「皆が選んだのは、ジーク・ファーストだった。
ジークは難なく玉座に就いたわ。ユーヤはそれを、祝福したわ、心からね。
───ジークにあって、ユーヤになかったもの……それは、野心よ。
こんな馬鹿な話ってある?
本当に王にふさわしかったのは、ユーヤよ。ジークなんかじゃなかったわ!」
カミューラが語調を強めた瞬間、
「だからっ……、ジークを、殺したのかっ……!!」
叩きつけられた木にもたれるようにして、エマは体を起こし、カミューラをにらみすえていた。
「それだけで、ジークを殺したというのか!?」
「そうよ! ジークが邪魔だったのよ。
憎かった、なんの苦労もしないで王になったジークがね!
ユーヤを出し抜いて、王になったジークがね!
だから、儀式の立ち会いに行くというユーヤに、スラントの毒を混ぜたワインを持たせたの。
ジークへのお祝いよって」
「ふざけるなっ……!」
エマが怒鳴って、息を荒くし、木に寄りかかったまま立ち上がる。
「お前は……ユーヤさえよければ、それでいいのか?
他の人間は、どうなっても、いいというのかっ!?」
「えぇ、そうよ。私が大事なのは、ユーヤだけ。
……第一、他の人が私に何をしてくれたっていうの? 何もしてくれてないじゃないの。
それどころか、私をただ疎ましげな目で見て、無言で追い払うような真似をしただけ。
そんな人たちの、いったい何を考えてやれっていうの?」
エマの非難に、事もなげにカミューラは答える。
「だからね」
言って、カミューラは片腕を上げた。
彼女のいる側の木の枝がしない、カミューラの目の前に下りる。
彼女はそこから、葉を一枚、取った。唇に、押しあてる。
「ユーヤを死に追いやったあなた達が、私は、赦せないのよ!」
シュッと、手にした木の葉を、エマに向かって投げ飛ばす。
瞬間、あたりの木々がギシギシときしめき始め、枝についた無数の葉が、まるで矢のようにエマを襲った。
エマ……!
横目で見ていたオレは、なんとかこの束縛から逃れたいと、思った。
「何か言いたげね、聞いてあげるわ」
パチン、と、カミューラが指を鳴らす。
いままでオレの体を縛っていた目には見えない力が、ふっと消え去った。
ひざが笑って、それまでの反動から、オレはその場にくずれ落ちる。
脱力感におそわれ、呼吸するのもやっとだった。
けれども、なんとかカミューラに向かって口を開く。
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