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第三章 奪われた未来
14.ティアは、どこだ!?
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目を覚ますと、天井が見えた。
大きな部屋のものだと分かったのは、オレの視線が垂直な壁とぶつかるまで、時間がかかったからだ。
オレ……気、失って。
ケンカする前の直哉との会話とかを、夢のなかで思いだしてたってことか。
謝らなきゃ、なんて思いながら目が覚めるなんて、後味悪いな。
「目が、覚めたようだな」
その声にハッとして、上半身を持ち上げようとした。
うっ……。
身体中に痛みが走る。
びりびりっと、しびれる感覚が全身を突き抜けていく。
ひと息ついて、今度はおそるおそる身体を起こしてみる。
それでも痛みはあったけど、耐えられないほどではなかった。
「お前……」
誰だよ、と、続けようとして、オレは口をつぐんだ。
その男は、ふっ……と、笑った。
大理石で出来た、椅子のような物に腰掛けている。
この部屋にいるのは、オレと、その男だけだった。
部屋が実際よりも広々と感じたのは、男が腰掛けている物以外、何もない殺風景な所だったからのようだ。
「……ネズミが三匹入ったとの報告は受けたが、岩石の仕掛けに、ここへ飛ばされた君は運がいい」
男にしては、高い抑揚のある声で告げたそいつを、オレはようやくまともに見ることができた。
「───君の、名前を訊こうか」
言われて真っすぐに向けられた瞳の色は、ブルー・グレイ。
いままで意識が朦朧としていたせいで気づかなかったけど、こいつって、かなりの美形。
褐色の長めの前髪の奥から向けられる、理知的な眼差しは、その男の落ち着きを表していた。
「オレに名前訊く前に、てめーの名前名乗んな」
ぶっきらぼうに言い返した。実は、ちょっと悔しかったんだ。
名前に全然似合わない、良いルックスをもつ男、と。
友人に言われるオレが、不機嫌になるくらいの容貌の男に、腹が立った。
オレ、名前で泣いたことはあるけど、容姿ではないんだぜっ。
この状況でそんなくだらないことを考えるオレの前で、男はちょっと笑ってみせた。
「いいよ、答えよう。
俺は、ここの城主、ユーヤ・ド・ダラスだ」
一瞬、息が止まるかと思った。
目の前にいる男が、オレ達が会おうとしていたユーヤだったなんて……。
「俺は答えた。さぁ、君の番だ」
「───朝倉だ」
奴を見据えながら、短く答えた。
こいつが、ユーヤ・ド・ダラス……。
ユーヤは静かに口をひらいた。
「では訊こう。
アサクラ、君は、なんのためにここに来た?」
「ティアを!」
問いかけに、思わず声を大にして言った。
「ティアを、返してもらいたいんだ! 彼女は、どこにいるんだ!? 教えろよっ!」
するとユーヤは、ゆっくりと瞬きをした。
「ティア……?」
「とぼけるなよ!
お前がティアをさらったのは、分かってるんだ!」
「ティアの行方は、俺も知らない」
きっぱりと言いきったあと、ニヤッと笑った。
「もっとも、知っていたところで、君に教える道理はないと思うが。
───彼女を、どうするつもりだ?」
「それこそ、答える必要ないだろ」
オレは身体の痛みに耐えながら、立ち上がってユーヤに近寄った。
「なんで、ウソつくんだよ!」
噛みつくように言ったが、ユーヤは無表情にオレを見返した。
「知らないものを知っているとは言えない。
……君のいう通りそれこそ嘘をつくことになる」
「こいつっ!」
揶揄するように返された言葉に、座ったままのユーヤを見下ろす形で、オレは奴の胸ぐらをつかんだ。
「ふざけてないで、言えよ! ティアはどこだっ!?
彼女は、この国に戻りたくないって言ってたんだぞ!
なんで、連れ戻したりなんかしたんだよっ!!」
「───今度は力づくか。虚しいな」
初めてユーヤの顔に、嫌悪が浮かんだ。
が、それは一瞬のことで、すぐに感情は消え去っていた。
「……仕方ない、君の相手をしよう。この手を放してくれ」
穏やかな口調でユーヤに言われ、オレは手を放した。
思わずカッとなってしまった自分に気づき、ばつが悪かった。
直哉がいると、あいつのほうがカッとなりやすくて、オレは、なだめ役に回るんだけどなぁ。
オレって実は、血の気の多いほうだったんだな。
「……オレが勝ったら、ティアの居場所、教えろよ」
ぼそっと言うと、ユーヤは小さく笑った。
「君が勝つとは思えないが、まぁ、そういう約束にしよう。
ただし、俺が勝ったら、即座に君に城を去ってもらおう。
俺も、暇じゃないんでね。
君の話には、これ以上、付き合えない」
けっ。
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