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第三章 奪われた未来
12.ユーヤのいる部屋をめざして
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怖かった。
自分の身の危険とか、そういう恐怖も、もちろんある。
だけど、それよりオレが怖かったのは、生命の尊さが問われない現状のほうだった。
人の命を奪うということは、そいつの確かにあった未来を奪うということだ。
限りない可能性を秘める未来を、どうして一個の人間が奪えるのだろう。
生態系のなかで、命を奪ったり奪われたりするのとは、訳が違う。
そう思うと、オレはここでは本当に生きていけない人間なんだと、実感した。
……価値観が、根本的に、違いすぎている。
くっと唇をかみしめた時、オレの左足がカクッと沈んだ。
えっ……?
「───アサクラ! ギル! 後ろへ跳べっ!!」
エマの唐突な叫びに、オレ達は反射的にエマの言葉に従った。
言った直後に、エマ自身は前に転がるように跳ぶ。
刹那、音を立てて天井から数十本の槍が、オレ達のいた場所に突き刺さった。
う、危うく串刺しだ……。
「エマ、よく分かったな」
オレが感心すると、エマはふっ……と、得意げに笑った。
「天井の動く気配がしたんだ。……おれは気配や物音に敏感なんでな」
エマにうなずきながら、ほっとしたようにギルが言った。
「どこかに仕掛けがあったんだな。本当に、助かったよ、エマ」
オレは、はっとした。
さっきの……。
「ごめん。オレがさっき踏んだのが、そうみたいだ……」
うなだれるオレに、めずらしくエマが優しく微笑んだ。
「気にするな。
おれたち三人とも、どこにどういう仕掛けがあるのかなんて、見当がつかないんだ。
だから、互いが気を配っていかねばな」
エマの言葉に、オレは目が覚める思いがした。
確かに価値観がまるで違うけど、それがここのルールなら、オレはそれに従うしかないのかもしれない。
そしてオレは、それを承知でスメルムーンに来たはずだ。
……まぁ、だからといって、安易に人を殺す行為を認められないけど。
いま現在、オレはオレの置かれた立場を把握して、自分のできることをしなきゃいけない。
そう思った───。
オレ達は迷路のような造りの城内を、ひたすらユーヤのいる部屋をめざして歩き続けた。
三十分ほど歩いた頃、どこからともなくゴゴゴッという、大きな物体が地を這うような音が聞こえてきた。
「なんだろ……」
ギルと顔を見合せていると、エマがひざまずき、石畳の床に耳を押しあてた。
「───近寄って来ている……」
つぶやくように言ったとたん、ぴくっとこめかみを動かし、エマがオレ達を見た。
「岩だ!」
「岩って、なんで岩が動いてんだよ?」
思わず訊き返すと、エマがオレをにらむ。
「おれに言うな」
「───あれは……!!」
ギルの驚愕した声に、にらみ合っていたオレとエマは、ギルの視線の先を見て言葉を失った。
「なっ……」
天井すれすれに、丸い巨大な岩が、こちらに向かって、勢いよく転がってきていた。
「戻るぞっ!」
言うが早いか、エマか駆けだす。オレとギルも、同様に走りだした。
さっきまで歩いて来た道を、メチャクチャに走るオレ達。
巨大な岩石は、オレ達のすぐ後方に迫ってきている。
なんでついてくるんだよぉ。
まるでオレ達が見えているみたいだぜっ。
エマが舌打ちした。
「くそっ……埒が明かぬな……!!」
息をきらせながらつぶやき、右手首を左手で覆い、それをすべらせて剣を出現させた。
え……。
オレとギルは視線を交わしてみたけど、お互いエマの行動がつかめなかった。
「───叩き割ってくれるわ!」
言うなり、ピタッと足を止め、追いかけてくる岩と向かい合うエマ。
わ、バカッ!
「やめろよ、エマ! 正気かっ?」
「無茶だ! 歯こぼれをおこすだけでは済まない」
オレとギルは、ぎょっとして、あわててエマの腕を両側から引いた。
「ええい、放せっ! このまま走り続けるというのか、貴様らは!」
後ろ向きに、半ばオレ達に引っ張られるようにして、走りながらもがき、エマがわめく。
次の瞬間、岩がカッと光った。
なんだっ!?
「───うわぁっ!!」
叫び声をあげた時には、ものすごい衝撃を背中に受けていた。
な………ん、だよ……いまの………。
気が、遠くなるのを、感じていた───。
自分の身の危険とか、そういう恐怖も、もちろんある。
だけど、それよりオレが怖かったのは、生命の尊さが問われない現状のほうだった。
人の命を奪うということは、そいつの確かにあった未来を奪うということだ。
限りない可能性を秘める未来を、どうして一個の人間が奪えるのだろう。
生態系のなかで、命を奪ったり奪われたりするのとは、訳が違う。
そう思うと、オレはここでは本当に生きていけない人間なんだと、実感した。
……価値観が、根本的に、違いすぎている。
くっと唇をかみしめた時、オレの左足がカクッと沈んだ。
えっ……?
「───アサクラ! ギル! 後ろへ跳べっ!!」
エマの唐突な叫びに、オレ達は反射的にエマの言葉に従った。
言った直後に、エマ自身は前に転がるように跳ぶ。
刹那、音を立てて天井から数十本の槍が、オレ達のいた場所に突き刺さった。
う、危うく串刺しだ……。
「エマ、よく分かったな」
オレが感心すると、エマはふっ……と、得意げに笑った。
「天井の動く気配がしたんだ。……おれは気配や物音に敏感なんでな」
エマにうなずきながら、ほっとしたようにギルが言った。
「どこかに仕掛けがあったんだな。本当に、助かったよ、エマ」
オレは、はっとした。
さっきの……。
「ごめん。オレがさっき踏んだのが、そうみたいだ……」
うなだれるオレに、めずらしくエマが優しく微笑んだ。
「気にするな。
おれたち三人とも、どこにどういう仕掛けがあるのかなんて、見当がつかないんだ。
だから、互いが気を配っていかねばな」
エマの言葉に、オレは目が覚める思いがした。
確かに価値観がまるで違うけど、それがここのルールなら、オレはそれに従うしかないのかもしれない。
そしてオレは、それを承知でスメルムーンに来たはずだ。
……まぁ、だからといって、安易に人を殺す行為を認められないけど。
いま現在、オレはオレの置かれた立場を把握して、自分のできることをしなきゃいけない。
そう思った───。
オレ達は迷路のような造りの城内を、ひたすらユーヤのいる部屋をめざして歩き続けた。
三十分ほど歩いた頃、どこからともなくゴゴゴッという、大きな物体が地を這うような音が聞こえてきた。
「なんだろ……」
ギルと顔を見合せていると、エマがひざまずき、石畳の床に耳を押しあてた。
「───近寄って来ている……」
つぶやくように言ったとたん、ぴくっとこめかみを動かし、エマがオレ達を見た。
「岩だ!」
「岩って、なんで岩が動いてんだよ?」
思わず訊き返すと、エマがオレをにらむ。
「おれに言うな」
「───あれは……!!」
ギルの驚愕した声に、にらみ合っていたオレとエマは、ギルの視線の先を見て言葉を失った。
「なっ……」
天井すれすれに、丸い巨大な岩が、こちらに向かって、勢いよく転がってきていた。
「戻るぞっ!」
言うが早いか、エマか駆けだす。オレとギルも、同様に走りだした。
さっきまで歩いて来た道を、メチャクチャに走るオレ達。
巨大な岩石は、オレ達のすぐ後方に迫ってきている。
なんでついてくるんだよぉ。
まるでオレ達が見えているみたいだぜっ。
エマが舌打ちした。
「くそっ……埒が明かぬな……!!」
息をきらせながらつぶやき、右手首を左手で覆い、それをすべらせて剣を出現させた。
え……。
オレとギルは視線を交わしてみたけど、お互いエマの行動がつかめなかった。
「───叩き割ってくれるわ!」
言うなり、ピタッと足を止め、追いかけてくる岩と向かい合うエマ。
わ、バカッ!
「やめろよ、エマ! 正気かっ?」
「無茶だ! 歯こぼれをおこすだけでは済まない」
オレとギルは、ぎょっとして、あわててエマの腕を両側から引いた。
「ええい、放せっ! このまま走り続けるというのか、貴様らは!」
後ろ向きに、半ばオレ達に引っ張られるようにして、走りながらもがき、エマがわめく。
次の瞬間、岩がカッと光った。
なんだっ!?
「───うわぁっ!!」
叫び声をあげた時には、ものすごい衝撃を背中に受けていた。
な………ん、だよ……いまの………。
気が、遠くなるのを、感じていた───。
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